【社労士が解説】会社が自力でできる労務トラブル予防策|解決事例7選

公開日: 2025.07.12

会社の成長を支えるのは「人」です。
しかし、その「人」に関する問題は、時に経営の根幹を揺るがしかねません。

「また従業員が辞めてしまった…」

残業代の計算、本当にこれで合っているだろうか?」

「最近、職場の雰囲気が悪い気がする…」

経営者や人事担当者のみなさま、こうした悩みを抱えながらも、日々の業務に追われ、根本的な対策を後回しにしていませんか?

本記事では、社会保険労務士(社労士)が実際に解決してきた豊富な事例を基に、企業が直面しがちな労務トラブルの具体的な解決策と、問題が起こる前に自社で実践できる「予防策」を徹底解説します。

どこまで自社で対応でき、どこから専門家の力が必要なのか、その境界線を明確にすることで、あなたの会社をより強く、しなやかな組織へと導く羅針盤となることを目指します。

なぜ今、社労士が「経営のパートナー」なのか?

かつて社労士は、社会保険の手続きや給与計算を代行する「事務の専門家」というイメージが強かったかもしれません。

しかし、働き方の多様化や労働者の権利意識の高まりを受け、現代の社労士の役割は大きく変化しています

現在、社労士の業務は、手続き代行(1号業務)や帳簿作成(2号業務)といった独占業務に加え、人事労務管理に関するコンサルティング(3号業務)の重要性が飛躍的に高まっています。

トラブルが起きてから対応する「治療」ではなく、トラブルが起きない仕組みを作る「予防」こそが、社労士の真価であり、企業の持続的成長に不可欠な要素となっているのです。

社労士が企業の「労務に関する会社健康診断」でチェックする主な項目は、多くの中小企業が抱える悩みと共通しています。

社労士が企業の「健康診断」でチェックする主な項目

  • 労働時間と賃金に問題がないか(長時間労働、未払い残業代など)
  • 職場の規律と安全が確保されているか(就業規則、ハラスメント対策など)
  • 人事制度の設計と効果的な運用がされているか(評価制度、育成など)
  • 紛争解決への対策とリスク管理は安全か(労使トラブル、解雇問題など)
  • 公的制度などは活用されているか(助成金・奨励金の受給など)

次からは、これらの具体的な問題に対し、社労士がどのように介入し、解決に導びくのかを、詳細なケーススタディで見ていきましょう。

自社でできる解決法+社労士はこう解決する!リアル事例7選を紹介

ケース 1:「仕方ない」では済まされない!慢性的な長時間労働

ある建設会社では、工期の遅れを取り戻すため、連日深夜までの残業が常態化。経営陣も黙認していましたが、ついに従業員の一人が過労が原因とみられる心筋梗塞で急逝してしまいました。

社労士の解決策

  • 問題の本質が非効率な業務構造にあると見抜いた社労士は、業務プロセスの見直しを提案。基幹システムを刷新して生産計画を自動化したり、繫忙期と閑散期で労働時間を調整できる「変形労働時間制」を導入したりすることで、業務効率を抜本的に改善しました。さらに、残業を承認制にし、上限時間を設けることで、管理職の意識改革も促しました。

自社でできる:労働時間の正しい管理

  • 「労働時間」を正しく理解する: 朝礼や着替え、指示待ち時間も労働時間に含まれることを認識しましょう。
  • 客観的に記録する: タイムカードやPCログなど、自己申告以外の客観的な方法で始業・終業時刻を記録します。
  • 1分単位で計算する: 「15分未満切り捨て」は違法です。労働時間は1分単位で計算するのが原則です。
  • 割増賃金のルールを確認する: 時間外(25%~)、休日(35%~)、深夜(25%~)の割増率、特に月60時間超の時間外労働(50%~)が正しく計算されているか確認しましょう。

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • 日常的に月45時間を超える残業が発生している
  • 自己申告による労働時間であり実態との乖離がある
  • 休日出勤があり黙認している
  • 従業員から健康問題の訴えがあった
  • 労働基準監督署から調査の通知や是正勧告を受けた

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説(PDF版)
参考:厚生労働省(徳島労働局)「変形労働時間制

ケース 2:「固定残業代」の有効要件は意外に厳しい…高額な未払賃金請求リスク

あるIT企業では「給与には残業代が含まれている」というあいまいな認識で固定残業代を運用している。
しかし、契約書にはそのような名目はなく、何時間分でいくらなのか明記もしていませんでした。

社労士の解決策

  • 通常の賃金部分と固定残業手当部分を明確に区別する
  • 固定残業手当が何時間分かを明示し雇用契約書で労働者と個別に締結
  • 固定残業代の金額がしっかり法定の割増賃金を上回る制度へ再設計

自社でできる:固定残業代の有効要件セルフチェック

  • 「基本給」と「固定残業手当」が明確に分かれていますか?
  • 就業規則でルールを定めていますか?
  • 何時間分か明記されていますか?
  • 雇用契約書に明記し労働者と個別に合意していますか?
  • 法定計算額を下回っていませんか?
  • 超過した分の残業代は別途支払われていますか?

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • チェックで一つでも「いいえ」があった(その時点で固定残業代の効力は失われています)
  • 従業員が固定残業代に不満を示している
  • 既に退職者から未払い請求通知が届いた

参考:厚生労働省「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします

ケース 3:「無意識で悪気のないハラスメント」が、組織を蝕む

社労士の解決策

  • 就業規則に禁止行為と懲戒処分を明記する
  • 相談窓口の設置とプライバシー配慮ルールを定める
  • 全社的な研修・管理職向けの研修を実施する

自社でできる:ハラスメント防止の対策

  • 就業規則にハラスメント禁止事項を明記
  • 相談窓口を設置し周知する
  • 定期的な研修を実施する

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • 退職者や休職者が発生している
  • 加害者が役員ある(自力解決が困難)
  • 既に金銭的要求が発生
  • 社内での解決が困難な対立が発生している

ケース 4:「不当解雇だ!」元社員からの突然の要求

社労士の解決策

  • 特定社労士が「あっせん」手続きを活用し、解決金で合意退職に

自社でできる:解雇トラブルの「予防対策」

参考:特定社労士とは?「紛争解決手続代理業務」

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • 解雇しようと考えている社員がいる
  • すでに退職に不満を持っている元社員がいる
  • 労働局、弁護士、組合、ユニオンなどから連絡が入った

ケース 5:インターネットでダウンロードした「名ばかり就業規則」の悲劇

社労士の解決策

  • 自社の実態に即した法改正対応のカスタム就業規則を構築する
  • 正社員・パート・嘱託社員など雇用形態ごとの規程と助成金の活用も視野に入れた規則を定める

自社でできる:正しい就業規則の作成

  • 厚生労働省の「モデル就業規則」をベースにカスタマイズする
  • 必要記載事項の理解と反映
  • 届け出と従業員への周知を徹底

参考:厚生労働省「モデル就業規則

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • 10人以上いるが就業規則がない(従業員を常時10人以上雇用している事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています)
  • 不利益変更を行いたい

参考:厚生労働省「就業規則作成・届出に関するFAQ

ケース 6:「人事評価制度がない…」不公平な評価が、若手の離職を招く

社労士の解決策

  • 自社が必要とする人材の明確化
  • 自社に合った等級制度と評価基準の設計
  • 賃金制度の構築
  • 評価者に対する研修と育成方針の明確化

自社でできる:シンプル人事評価の原則

  • 必要な人材を明確化
  • 育成方針を設定
  • 評価軸は「成果・能力・行動」の3つとする
  • ほったらかしにせず定期的な面談の機会を設ける

危険の信号:社労士への相談を検討すべき時

  • 降格や賃下げのための手段として制度設計している
  • 作成したものの形骸化している

参考:厚生労働省「職業能力評価基準導入 マニュアル

ケース 7:知らなかったでは済まされない「隠れ財源=助成金」の活用

社労士の解決策

  • 助成金を受給するための就業規則の整備と申請
  • 雇い入れ・設備投資・定年引上げ等のタイミングで助成金を受給

自社でできる:助成金活用のための「準備運動」

  • 安易に解雇しないこと(解雇すると助成金は一定期間申請できません)
  • 労働保険料の滞納はしないこと
  • 三帳簿=「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の整備
  • 10人以上なら就業規則の作成・届出

参考:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金

法的境界線】これは専門家の領域です

助成金の申請代行は社労士の独占業務です。

参考:全国社会保険労務士会連合会

自力の解決の落とし穴と、賢い社労士の使い方

労務管理を自力解決をしようとした場合の4つの落とし穴

  • 就業規則や雇用契約書がネットテンプレートの罠:最新労働法違反のリスク大
  • 暗黙のルールがある:書面化することが必須
  • ハラスメントや解雇に対する対応の失敗:軽視すると大きな金銭的問題に発展します
  • 見過ごされているコスト:対応時間の浪費、弁護士費用、助成金申請漏れなどが発生します

まとめ:トラブルを未然に防ぎ、強い組織を育むために

労務トラブルの根源は、突き詰めれば「情報の不足」と「ルールの不備」です。
問題が起きてから対処するより、問題が起きない「予防」こそが最強のリスク管理と言えます。

まずは今回の記事をよく読んで『セルフチェック』をし、自社の現状を把握し、できることから始めてみてください。

しかし、もし一つでも『危険の信号』に当てはまったら、決して放置は禁物です。初期対応の遅れが、解決を何倍も難しくします。

私たち社労士への相談は、コストではありません。会社の未来を守り、社員の安心を育むための「賢明な投資」です。強い組織づくりのパートナーとして、いつでもお気軽にご相談ください。


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