固定残業代の見直しで、若手が辞めない会社へ:計算方法や成功事例を解説|税理士・社労士が解説

公開日: 2025.06.28

最終更新日: 2026.01.11

「残業代が払えてないのを何とかしたい」「でも人件費は抑えたい」「固定残業代をなくしたいが社員の手取りが減ってしまう」

このようなお悩みを抱える人事担当者や経営者の方は少なくないでしょう。特に、ワークライフバランスを重視する現代の若手世代にとって、長時間労働は企業を選ぶ上での大きな障壁となり、離職の原因にもなりかねません。

「固定残業代って、本当に必要なのか?」
「若手が次々と辞めていく…何が原因なのか?」

本記事では、固定残業代の見直しを検討する企業に向けて、その法的側面から具体的な計算方法、削減手法、代替となる報酬制度、そして円滑な移行プロセスまで、多角的なノウハウをご紹介します。働き方改革を推進し、若手社員が長く働きたいと思える魅力的な企業を作るためのヒントとして、ぜひご活用ください。

目次

なぜ今、固定残業代の見直しと労働時間削減が必要なのか?

理由1. 若手世代の価値観の変化と「働きがい」

若手世代の価値観の変化

現代の若手世代(Z世代など)は、給与や待遇はもちろんのこと、ワークライフバランス個人の成長機会企業の社会貢献性など、多様な価値観を重視しています。単に長時間働くことよりも、限られた時間で成果を出し、プライベートも充実させたいという傾向が顕著です。

実際に、若手社員の転職理由として「給与・待遇への不満」に加え、「仕事内容への不満・ミスマッチ」「長時間労働」が上位に挙げられます。これは、単に給与が高いだけでなく、働き方そのものへの不満が離職に繋がっていることを示唆しています。

理由2. 固定残業代制度が抱える5つの深刻な課題

固定残業代制度の課題

固定残業代(みなし残業代)は、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支給する制度です。給与計算の簡素化や、求人票での給与額を高く見せられるといったメリットがある一方で、以下のような深刻な課題やリスクを抱えています。

課題1. 未払い残業代リスク

固定残業時間を超えて労働した分の残業代が支払われていない場合、未払い残業代として会社が訴えられるリスクがあります。過去2年分の遡及請求、付加金(制裁金)、遅延損害金を合わせると、数千万円から億単位の支払いが発生するケースもあります。

課題2. 求職者とのミスマッチ

固定残業代が導入されていることを理解せずに入社し、実態とのギャップに不満を感じ早期離職につながることがあります。求人票で「月給30万円」と表示されていても、実際は「基本給20万円+固定残業代10万円(45時間分)」というケースでは、求職者は誤解します。

課題3. 採用力低下

ワークライフバランスを重視する若手世代にとって、固定残業代制度は長時間労働を助長するイメージにつながりやすく、企業の採用力低下を招く可能性があります。「固定残業代あり」という求人票を見ただけで応募を避ける求職者も増えています。

課題4. モチベーション低下

どんなに早く帰っても残業代が変わらないため、効率的に働くインセンティブが働きにくい場合があります。「どうせ固定残業代分は引かれないから、定時で帰っても損」という心理が働き、生産性向上の妨げになります。

課題5. 法的要件の複雑さと無効リスク

固定残業代は、基本給と明確に区別して明記するなど、厳格な法的要件を満たす必要があります。違反すると無効と判断される可能性があり、過去に遡って残業代を支払う義務が発生します。

固定残業代の基本と計算方法

固定残業代を適切に運用するには、まず正しい計算方法を理解することが不可欠です。

固定残業代が有効となる3つの要件

固定残業代が法的に有効と認められるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 通常の賃金と固定残業代の明確な区分
    雇用契約書や給与明細で、基本給と固定残業代を明確に区別して記載する必要があります。例:「基本給20万円、固定残業代5万円(45時間分)」
  2. 固定残業代の対象時間の明示
    何時間分の残業代が含まれているのかを明記する必要があります。例:「固定残業代5万円(45時間分を含む)」
  3. 超過分の追加支払い
    固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があります。

固定残業代の計算方法(3つのパターン)

パターン1:基本給と固定残業代が分離されている場合

【例】 基本給20万円、固定残業代5万円(45時間分)、所定労働時間160時間/月

【計算】

  1. 時間単価の計算
    時間単価 = 基本給 ÷ 所定労働時間
    = 200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円
  2. 残業代単価の計算(割増率1.25倍)
    残業代単価 = 1,250円 × 1.25 = 1,562.5円
  3. 45時間分の残業代
    1,562.5円 × 45時間 = 70,312.5円

【判定】 固定残業代5万円 < 実際の残業代70,312円
固定残業代が不足しているため、差額20,312円を追加で支払う必要があります

パターン2:基本給に固定残業代が含まれている場合

【例】 月給25万円(うち固定残業代45時間分を含む)、所定労働時間160時間/月

【計算】

  1. 固定残業代を逆算
    X = 固定残業代
    月給 = 基本給 + 固定残業代
    250,000 = (250,000 – X) + X
  2. 時間単価 = (250,000 – X) ÷ 160時間
  3. 残業代単価 = 時間単価 × 1.25
  4. 45時間分の残業代 = 残業代単価 × 45 = X

【解】
時間単価 = (250,000 – X) ÷ 160
X = ((250,000 – X) ÷ 160) × 1.25 × 45
X = ((250,000 – X) × 56.25) ÷ 160
160X = 14,062,500 – 56.25X
216.25X = 14,062,500
X ≈ 65,029円

【結果】
基本給:184,971円
固定残業代:65,029円(45時間分)

パターン3:実際の残業時間が固定時間を超えた場合

【例】 基本給20万円、固定残業代5万円(45時間分)、実際の残業時間60時間

【計算】

  1. 時間単価 = 200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円
  2. 残業代単価 = 1,250円 × 1.25 = 1,562.5円
  3. 60時間分の残業代 = 1,562.5円 × 60時間 = 93,750円
  4. 追加支払額 = 93,750円 – 50,000円 = 43,750円

【判定】 固定残業代5万円に加えて、超過分43,750円を別途支払う必要があります

固定残業代が無効になる5つの危険なケース

以下のケースでは、固定残業代が無効と判断され、過去に遡って残業代を支払う義務が発生する可能性があります。

ケース1. 基本給と固定残業代の区別が不明確

雇用契約書や給与明細に「月給25万円」とだけ記載され、固定残業代の内訳が明記されていない場合、固定残業代として認められません。

【正しい記載例】
月給25万円(基本給18.5万円、固定残業代6.5万円/45時間分を含む。超過分は別途支給)

ケース2. 固定残業時間の明示がない

「固定残業代5万円」とだけ記載され、何時間分の残業代なのかが明記されていない場合も無効となります。

ケース3. 超過分の残業代が支払われていない

固定残業時間を超えて労働したにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていない場合、固定残業代全体が無効と判断される可能性があります。

ケース4. 最低賃金を下回る

固定残業代を除いた基本給が、最低賃金を下回っている場合は違法です。

【例】 大阪府の最低賃金1,064円(2024年10月〜)の場合
所定労働時間160時間/月なら、基本給は最低170,240円必要

ケース5. 求人票と実態が異なる

求人票に「月給30万円」と記載しながら、実際は「基本給20万円+固定残業代10万円」という場合、求職者を欺く行為として問題視されます。ハローワークの求人票では、固定残業代を含む場合は明確に内訳を記載することが義務化されています。

固定残業代廃止・見直しの具体的な手順と方法(5ステップ)

固定残業代見直しの手順

固定残業代の廃止や見直しは、従業員にとって「不利益変更」にあたる可能性があるため、慎重な検討円滑なプロセスが不可欠です。

STEP1. 現状把握と目的の明確化

まずは、現在の残業実態、固定残業代の内訳、従業員の給与水準などを正確に把握しましょう。その上で、「なぜ固定残業代を見直すのか」「労働時間削減によって何を達成したいのか」という目的を明確にし、経営層や人事部門で共有することが重要です。

① 現状分析のチェックポイント

  • 実際の残業時間は固定残業時間内に収まっているか?
  • 固定残業代を超過した場合、追加支払いは適切に行われているか?
  • 従業員は固定残業代制度を正しく理解しているか?
  • 離職率の高い部署・年代はあるか?その原因は何か?
  • 固定残業代が採用活動にどのような影響を与えているか?

STEP2. 代替報酬体系の検討と設計

固定残業代をなくす、あるいは見直す場合、従業員の収入が減らないように代替となる報酬体系を検討することが重要です。

① 基本給や各種手当への振り替え

固定残業代相当額を基本給に組み込む、または新たな手当を創設する方法です。

基本給への上乗せ

最もシンプルで、従業員の収入安定に繋がりやすい方法です。例えばSCSKでは、残業削減インセンティブとして「健康手当」を創設し、一定額を月例給与に上乗せしています。

家族手当・住宅手当などの導入

条件を満たせば残業代の算定基礎から除外できるため、人件費を抑えつつ従業員の生活を支援できます。ただし、一律支給の手当は残業代の算定基礎に含める必要がある場合があるので注意が必要です。

調整手当

一時的な措置として、見直しによって収入が減少する従業員に対して、一定期間調整手当を支給し、激変緩和を図ることも有効です。

② 成果主義・職務給・役割給の導入

労働時間ではなく、個人の成果職務内容・役割に基づいて報酬を決定する制度です。

成果主義

営業職の「新規顧客獲得数」「売上目標達成率」など、具体的な成果指標を明確にし、その達成度合いに応じて賞与や昇給で還元します。時間ではなく成果で評価することで、従業員は効率的に働くようになり、生産性向上に繋がります

ポイント: 評価項目や評価プロセスを明確にし、公平性を確保することが重要です。短期的な成果に偏重せず、長期的な貢献も評価する仕組みを取り入れましょう。

職務給・役割給

役職や職務内容、求められる役割の難易度や責任の範囲に応じて給与を設定します。これにより、従業員は自身のキャリアパスを明確にイメージでき、スキルアップや能力開発のインセンティブになります。

STEP3. 実質的な残業時間削減のための施策

報酬制度の見直しと並行して、業務効率化や働き方改革を推進し、実質的に残業時間を削減する取り組みが不可欠です。

① 業務効率化の徹底

  • 無駄な業務の廃止
    「これは本当に必要か?」という視点で、ルーティン業務や慣習となっている作業を見直します。
  • 業務のマニュアル化と標準化
    属人化している業務をマニュアル化し、誰でも効率的に行えるようにします。
  • 役割分担の見直し
    業務が特定の個人に集中しないよう、チーム全体で適切に分担します。
  • ITツール・RPAの導入
    定型的な事務作業やデータ入力などをRPA(Robotic Process Automation)で自動化したり、タスク管理ツールやコミュニケーションツールを活用したりすることで、大幅な効率化が期待できます。
  • 会議の効率化
    会議の目的・ゴールを明確にし、時間を厳守。事前に資料を共有し、参加者を絞るなど、無駄をなくします。

② 柔軟な働き方の導入

  • フレックスタイム制・時差出勤
    従業員が自分のライフスタイルに合わせて始業・終業時間を調整できる制度です。通勤ストレスの軽減、育児・介護との両立支援、生産性向上に繋がります。
  • リモートワーク(テレワーク)
    通勤時間削減、働く場所の自由度向上により、従業員の満足度が高まります。ヤフーのようにコアタイムを廃止したフレックス勤務と組み合わせることで、より柔軟な働き方を実現できます。

③ 適切な人員配置とタスク管理

  • 人員配置の最適化
    繁忙期・閑散期に応じたシフト調整や、必要に応じてパートタイマー・派遣社員の活用を検討します。
  • タスク管理の徹底
    各従業員のタスクや進捗を可視化し、業務の偏りがないか、ボトルネックになっている部分がないかを確認します。これにより、適切な業務配分が可能になります。

④ 経営層・管理職による率先垂範と文化醸成

上司が帰らないと自分も帰れない」という雰囲気は、長時間労働の大きな原因です。

  • 上司の早期退社
    経営層や管理職が率先して定時に帰り、有給休暇を取得することで、従業員も安心して早く帰れるようになります。
  • 「部下を育てたか」を評価項目に
    管理職の評価項目に、部下の残業時間削減や業務効率化への貢献度、チームメンバーの育成状況などを加えることで、組織全体の意識改革を促します
  • ノー残業デーの徹底
    全社的なノー残業デーを設けることで、強制的に残業を抑制し、効率化を促します。

STEP4. 従業員への丁寧な説明と合意形成

固定残業代の見直しは、従業員の生活に直結するため、非常にデリケートな問題です。

① 十分な説明期間の確保

一方的な通達ではなく、変更の必要性、目的、新しい制度の具体的な内容、従業員への影響などを丁寧に説明する期間を設けます。

② 説明会の開催と個別面談

全体説明会だけでなく、疑問や不安を解消するための個別面談の場を設けることで、従業員の納得感を高めます

③ 経過措置・代替措置の明示

収入減への不安を払拭するため、代替手当の支給や段階的な移行期間の設置など、具体的な経過措置を明確に提示します。

④ 就業規則の変更と従業員の同意

不利益変更となる場合、原則として従業員個々の同意を得るか、就業規則の変更の合理性を客観的に説明できる必要があります。

STEP5. 成果のモニタリングと評価への連携

労働時間削減の取り組みが適切に行われているか、そしてそれが従業員の成果にどう結びついているかを継続的にモニタリングし、人事評価に反映させることが重要です。

  • 業務可視化ツールの活用
    PCログなどを用いて、誰が、いつ、どのような業務にどれくらいの時間を費やしているかを可視化します。これにより、業務のボトルネックを発見し、改善に繋げることができます。
  • 労働生産性を評価軸に
    単に長時間働くことではなく、「残業せずに成果を生み出している社員」を高く評価する仕組みを構築しましょう。労働生産性(成果÷労働時間)を評価指標の一つにすることで、効率的な働き方を奨励します。
  • 定期的なフィードバック
    従業員に対して、労働時間と成果のバランスについて定期的にフィードバックを行い、改善を促します。

見直し前後のシミュレーション:収入はどう変わる?

固定残業代見直しによって、従業員の収入がどう変わるのかをシミュレーションしてみましょう。

【ケース1】固定残業代を基本給に組み込む場合

項目 見直し前 見直し後
基本給 20万円 25万円
固定残業代 5万円(45時間分) 0円
月給合計 25万円 25万円
実際の残業時間 20時間/月
追加残業代 0円(固定分に含まれる) 約39,000円(別途支給)
実質手取り 約25万円 約28.9万円

【結果】 固定残業代を基本給に組み込むことで、実際の残業時間が少ない従業員は収入が増加し、モチベーション向上に繋がります

【ケース2】固定残業代を廃止し、成果給を導入する場合

項目 見直し前 見直し後
基本給 20万円 23万円
固定残業代 5万円(45時間分) 0円
成果給 0円 0〜5万円(目標達成度により変動)
月給合計 25万円 23万円〜28万円

【結果】 成果主義導入により、高い成果を上げた従業員は収入増、効率的に働くインセンティブが働きます

成功事例に学ぶ、固定残業代見直しと働き方改革

成功事例

実際に固定残業代の見直しや労働時間削減に成功し、若手社員の離職防止にも繋げている企業の事例を見てみましょう。

【事例1】SCSK株式会社:残業削減で離職率低下

公式プレスリリース

取り組み内容

  • 月間平均残業時間を35.3時間から18.1時間へ大幅削減
  • 有給休暇取得率をほぼ100%達成
  • 残業削減インセンティブとして「健康手当」を月例給与に上乗せ

成果

  • 従業員の収入を維持しつつ、残業削減への意識を高めることに成功
  • 新入社員の離職率低下を実現
  • 企業イメージ向上で採用力強化

【事例2】株式会社サイボウズ:離職率28%→4%へ激減

公式事例ページ

取り組み内容

  • 働き方に多様性を持たせ、離職率を28%から4%へ激減
  • 短時間勤務、週3勤務、リモートワークなど多様な働き方を選択可能
  • 子育て支援や自主参加型勉強会など、社員のワークライフバランスと成長を支援

成果

  • 従業員満足度の大幅向上
  • 優秀な人材の定着率向上
  • 働きやすさで業界トップクラスの評価獲得

【事例3】株式会社鳥貴族ホールディングス:外食業界で離職率8.1%を実現

事例詳細

取り組み内容

  • 無断残業・休日出勤の禁止
  • 休暇制度の整備
  • 店長の最高年収引き上げ
  • 子育て支援の充実化

成果

  • 外食産業ながら、入社半年間の離職率を8.1%という低水準で実現
  • 労働環境の改善と報酬面での魅力を高め、人材確保に成功

【事例4】大津建設株式会社:建設業でワークライフバランス改善

事例詳細

取り組み内容

  • ICT建機の導入
  • 多能工化の推進
  • 休日数の段階的増加

成果

  • 作業効率を4〜5割削減
  • 休日を増加させ、従業員のワークライフバランスが改善し、離職防止に繋がった

【事例5】日本システムウエア株式会社:特別休暇制度で満足度向上

厚生労働省事例集

取り組み内容

  • 「NSWホリディ」という年1回5日間連続で取得できる特別休暇制度を設置
  • 部下の休暇取得をマネージャーの責任と明示

成果

  • 取得率向上
  • 従業員のワークライフバランス支援に成功

これらの事例は、単に残業を減らすだけでなく、柔軟な働き方を導入したり、報酬制度を見直したりすることで、従業員のエンゲージメントを高め、結果として離職率の低下や企業価値の向上に繋がることを示しています。

固定残業代廃止の判断フローチャート

以下のフローチャートで、固定残業代を廃止すべきか判断しましょう。

STEP1: 実態確認

Q1. 実際の残業時間は固定残業時間内に収まっていますか?

→ YES: STEP2へ
→ NO: 超過分の残業代を支払っていますか?
 → YES: STEP2へ
 → NO: 未払い残業代リスクあり!即座に是正が必要

STEP2: 法的要件確認

Q2. 以下の3要件を全て満たしていますか?

  • 基本給と固定残業代が明確に区分されている
  • 固定残業時間が明示されている
  • 超過分の追加支払いが行われている

→ YES: STEP3へ
→ NO: 固定残業代が無効になるリスクあり!就業規則と雇用契約書の見直しが必要

STEP3: 効果測定

Q3. 固定残業代によって、以下の問題が発生していますか?

  • 若手の早期離職
  • 採用活動での応募者減少
  • 従業員のモチベーション低下
  • 長時間労働の常態化

→ 2つ以上該当: 固定残業代の見直しまたは廃止を推奨
→ 1つ以下: 現状維持も選択肢だが、定期的な見直しを推奨

STEP4: 代替策の検討

Q4. 固定残業代を廃止した場合、代替策を用意できますか?

  • 基本給への上乗せ
  • 各種手当の新設
  • 成果給・職務給の導入
  • 業務効率化による残業削減

→ YES: 固定残業代廃止を実行可能
→ NO: まずは代替策の検討から開始

よくある質問(Q&A)

Q1. 固定残業代を廃止すると、従業員の収入は減りますか?

A1. 適切な代替策を講じれば、収入は維持または増加します。固定残業代相当額を基本給に組み込む、または各種手当を新設することで、従業員の収入を維持できます。また、実際の残業時間が固定時間より少ない従業員は、基本給が上がることで実質的に収入が増加します。むしろ、固定残業代があることで「どうせ残業代は変わらない」とモチベーションが下がっていた従業員にとっては、成果主義や効率化インセンティブの導入で収入アップの機会が生まれます。

Q2. 固定残業代を廃止する際、従業員の同意は必要ですか?

A2. 原則として、従業員の同意が必要です。固定残業代の廃止は「不利益変更」にあたる可能性があるため、従業員個々の同意を得るか、就業規則の変更の合理性を客観的に説明できる必要があります。具体的には、(1)変更の必要性、(2)代替措置の内容、(3)従業員との協議の状況、(4)他の労働組合との交渉の経緯、などを総合的に判断します。一方的な通達ではなく、丁寧な説明と協議のプロセスが不可欠です。

Q3. 固定残業代を廃止すると、人件費は増えますか?

A3. 長期的には、人件費は適正化されます。固定残業代がある場合、実際の残業時間が少なくても固定分を支払う必要があるため、非効率です。廃止することで、実際の労働時間に応じた支払いとなり、残業削減のインセンティブが働きます。また、業務効率化や柔軟な働き方の導入により、残業時間自体が減少すれば、トータルの人件費は削減できます。ただし、基本給への上乗せや新設手当の導入により、短期的には人件費が増加する可能性があるため、段階的な移行が推奨されます。

Q4. 固定残業代を維持したまま、労働時間を削減する方法はありますか?

A4. 可能ですが、従業員のモチベーション維持が課題です。固定残業代を維持したまま労働時間を削減するには、(1)業務効率化の徹底、(2)ITツール・RPAの導入、(3)ノー残業デーの設定、(4)管理職の意識改革、などが有効です。ただし、「早く帰っても残業代は変わらない」という状況では、効率化へのインセンティブが働きにくいため、残業削減達成者への報奨金や評価制度への反映など、別のモチベーション施策が必要です。

Q5. 固定残業代が無効と判断された場合、どうなりますか?

A5. 過去に遡って残業代を支払う義務が発生します。固定残業代が無効と判断された場合、(1)過去2年分の未払い残業代、(2)付加金(未払い賃金と同額の制裁金)、(3)遅延損害金(退職後は年14.6%)、の支払いが命じられる可能性があります。100名規模の企業で数千万円から億単位の支払いが発生するケースもあります。そのため、固定残業代を導入する場合は、法的要件を厳格に満たすことが不可欠です。不安がある場合は、社労士に相談し、就業規則と雇用契約書を見直しましょう。

Q6. 営業職など、残業が避けられない職種でも固定残業代を廃止できますか?

A6. 廃止は可能ですが、代替策の検討が重要です。営業職のように残業が避けられない職種でも、固定残業代を廃止し、成果給や職務給を導入することで対応できます。例えば、「新規顧客獲得数」「売上目標達成率」などの成果指標を明確にし、その達成度合いに応じて賞与や昇給で還元する仕組みです。これにより、時間ではなく成果で評価されるため、効率的に働くインセンティブが働きます。ただし、実際の残業時間に応じた残業代は別途支払う必要があります。

Q7. 固定残業代を見直すベストタイミングはいつですか?

A7. 以下のタイミングが推奨されます。(1)新年度のスタート(4月):就業規則の改定と同時に実施しやすい。(2)若手社員の離職率が高まったとき:離職防止策として効果的。(3)労働基準監督署の調査が入る前:未払い残業代リスクを事前に排除。(4)採用活動で苦戦しているとき:働き方改革をアピールし、採用力強化。(5)事業拡大・組織再編のタイミング:新しい報酬制度を導入しやすい。いずれの場合も、十分な準備期間(最低3〜6ヶ月)を設け、従業員への丁寧な説明と合意形成を行うことが成功の鍵です。

まとめ:自社に合った働き方改革を推進するために

働き方改革の推進

固定残業代の見直しや労働時間削減は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、若手世代の価値観の変化に対応し、優秀な人材を確保・定着させるためには、避けては通れない道です。
本記事でご紹介した多様な手法の中から、自社の業界、企業文化、従業員の状況に合わせて最適な方法を選択し、段階的に導入していくことが成功の鍵となります。
「残業は悪」と決めつけるのではなく、「いかに効率的に、より高い成果を生み出すか」という視点に立ち、従業員一人ひとりが働きがいを感じ、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を構築していきましょう。
固定残業代の見直しと労働時間削減は、単なるコスト削減ではなく、企業の未来を創るための重要な投資です。この機会にぜひ、貴社らしい働き方改革の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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※本記事は作成日時点の法令に基づき作成しております。記事の内容に関するお問い合わせや、内容の正確性・完全性についての責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。具体的なご相談はお住まいの行政機関や専門家までお問い合わせください。

記事監修

【記事監修】
寺田慎也(てらだ しんや)
税理士・特定社会保険労務士
寺田税理士事務所 / 社労士法人フォーグッド / 株式会社フォーグッドコンサルティング 代表

【専門分野】
税務顧問、確定申告、税務調査対応、社会保険手続き、給与計算、労務相談、補助金・助成金申請支援

【保有資格】
税理士、特定社会保険労務士

【組織体制】
創業75年(1950年創業)の実績を持つ専門家集団。スタッフ20名、税理士4名・社労士6名(うち特定社労士2名)が在籍し、大阪・東京の2拠点で全国450社以上の企業をサポート。関連企業3社(株式会社フォーグッドコンサルティング、労働保険事務組合NIPRE大阪、有限会社西尾経営センター)と連携し、税務・労務・経営コンサルティングをワンストップで提供する体制を整えています。

【代表者の実績・メディア掲載】

  • テレビ朝日系列「羽鳥慎一モーニングショー」専門家として複数回出演(2024年5月・6月、2025年8月)
  • アイミツ「税理士と社労士が在籍するおすすめ事務所」実績部門 3年連続全国1位(日本最大級のビジネスマッチングサイト)
  • 中央経済社『税務弘報』にて連載執筆中「新・労務知識アップデート講座」(2026年1月号より12回連載)
  • ぎょうせい『税理』巻頭記事執筆「雇用形態の多様化で知っておきたい労務と税務」特集
  • 日経BP社『日経Woman』掲載(女性活躍推進・次世代働き女子に選ばれる理由)
  • マガジンハウス社『anan』掲載(女性社労士の働きがいとSDGs貢献)
  • 産経新聞「なっトクマネー」コラム掲載(2024年5月)
  • 税理士比較サイト『Taxus』大阪の税理士事務所おすすめ第1位
  • 社労士比較サイト『Labors』大阪の社労士事務所おすすめ第1位
  • 著書:『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』(幻冬舎、2018年)
  • 著書:『雇用関係助成金申請・手続マニュアル』(日本法令、2020年)
  • 補助金・助成金申請支援:累計採択額10億円超

参考資料(一次情報)

寺田税理士・社会保険労務士事務所

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