税務調査の抜き打ち調査とは|現況調査の流れ・断れる理由・当日の対応マニュアル

公開日: 2026.03.16

最終更新日: 2026.03.08

左:突然の税務調査官来訪に驚く中小企業経営者(モノクロ)、右:税理士と並んで冷静に対応している経営者(カラー)のビフォーアフターイメージ|寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)


――「突然、税務署の職員が会社に来た」——事前通知なしに調査官が臨場する「抜き打ち調査(現況調査)」は、準備のない状態で対応することになるため経営者にとって最も動揺しやすい場面です。しかし正しい手順を知っていれば冷静に対応できます。本記事では、現況調査の定義・対象になりやすい業種・断れる理由・当日の対応手順5ステップを税理士歴23年の現役税理士が完全解説します。

抜き打ち調査(現況調査)とは何か

突然の税務調査(抜き打ち・現況調査)の対応について税理士に電話相談している中小企業経営者のイメージ|寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)

税務調査には大きく2種類あります。ひとつは事前通知を行ったうえで実施する「通常の任意調査」、もうひとつが事前通知なしに突然臨場する「現況調査(抜き打ち調査)」です。

現況調査は国税通則法74条の10に根拠を持ちます。同条は「事前通知をすることにより当該調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合」に限り、事前通知なしの調査を認めています。つまり「事前に知らせると証拠を隠される・改ざんされる可能性がある」と税務署が判断したケースに適用されます。

項目 通常の任意調査 現況調査(抜き打ち)
事前通知 あり なし
対象 全業種 現金商売・脱税疑いなど
調査官の臨場 日程調整後 アポなし・突然
断れるか 実質困難 「本日は困難」と伝えることができる

どんな会社・業種が対象になりやすいか

現況調査は全業種に適用されうるものですが、現金売上が多い業種・帳簿の改ざんが比較的容易な業種が特に対象になりやすいとされています。

⚠ 現況調査の対象になりやすい主な業種・状況

現金商売が多い業種:飲食業・小売業・美容業・医療機関・風俗関連営業
レジ・POSシステムの管理が緩い事業者
業種平均と比べて売上利益率が著しく低い会社
税務署への申告がない・無申告が疑われる事業者
密告・情報提供(タレコミ)があった場合
反社会的勢力との関係が疑われる場合
過去の調査で重大な不正が発覚した事業者

なお現況調査は「強制調査(査察)」とは異なります。査察は国税局査察部(マルサ)が裁判所の令状を取得して行うものであり、現況調査は令状なしに行われる任意調査の一形態です。任意とはいえ正当な理由なく拒否すると罰則の対象になり得るため、冷静な対応が求められます。

抜き打ち調査は断れるか

突然の税務調査(現況調査)に冷静に対応している中小企業経営者と税理士のイメージ|寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)

「本日は対応が困難です」と伝えて日程を調整することは可能です。ただし「完全に断る(調査自体を拒否する)」ことは、正当な理由がなければ認められません。

国税通則法127条では、正当な理由のない調査拒否・妨害に対して1年以下の懲役または50万円以下の罰金を定めています。したがって「完全な拒否」は現実的ではありません。一方で「本日は担当者が不在のため後日お願いしたい」「顧問税理士が来るまで待ってほしい」という対応は正当な権利として認められます。

💡 「断れる」の正確な意味

✅ 「本日は経理担当者が不在で対応できません。後日改めて日程を調整させてください」→ 認められる
✅ 「顧問税理士が到着するまでお待ちください」→ 認められる
✅ 「今日はお受けできません。別の日程でお願いします」(正当な理由がある場合)→ 認められる場合がある
❌ 「税務調査は受けません」(理由なく完全拒否)→ 罰則の対象になり得る
❌ 「帰ってください」と怒鳴る・物理的に妨害する→ 厳禁

当日突然来られたときの対応手順(5ステップ)

突然の来訪に慌てず、以下の手順で対応してください。

STEP 1:身分証明書を必ず確認する

調査官を名乗る人物が来たら、まず「税務署の職員証(身分証明書)を見せてください」と求めてください。これは納税者の当然の権利です。氏名・所属税務署・調査の目的を確認します。なりすましや詐欺のリスクを排除するためにも必ず行ってください。

STEP 2:すぐに顧問税理士に電話する

身分証確認後、すぐに顧問税理士に連絡してください。調査官に「顧問税理士に連絡します。少しお待ちください」と伝えれば、その間に待ってもらうことができます。税理士が到着するまで調査に入ることを拒むことも可能です。

💡 緊急連絡先を事前に確認しておくこと

「突然来られたときに顧問税理士の電話番号がわからない」というケースが実際にあります。事務所・担当者の携帯番号を経理担当者・社長のスマートフォンに登録しておいてください。弊所では緊急連絡対応の体制を整えています。

STEP 3:応接室(または指定の場所)に案内して待機させる

調査官を経理書類・パソコン・金庫などがある場所(経理室・バックオフィス)には通さないでください。応接室や来客用スペースに案内し、そこで待機してもらいます。この段階ではまだ帳簿の提示・説明は必要ありません。

STEP 4:「本日は対応困難」の場合は理由を明示して日程調整を申し出る

担当者が不在・顧問税理士が来られないなど正当な理由がある場合は、「本日は○○のため対応が困難です。改めて日程を調整させていただけますか」と丁重に伝えてください。調査官が日程変更を拒否する場合は顧問税理士を通じて交渉します。

STEP 5:調査に入る場合は税理士の到着を待ってから開始する

その日に調査を開始する場合でも、税理士が到着するまで帳簿の提示・口頭での説明は最小限にとどめてください。「税理士が来てからご説明します」と伝えることは正当です。調査官の質問には「確認してからお答えします」と答えることも可能です。

⚠ 当日に絶対やってはいけない5つのこと(次節で詳解)

① 不用意に「うちはこんな処理をしています」と自発的に説明する
② 調査官を経理室・金庫のある場所に通す
③ 求められていない書類・データを自ら提供する
④ 調査官に怒鳴る・物理的に妨害する
⑤ 社長・経理担当者が一人で全対応してしまう

調査官に絶対に言ってはいけないこと・やってはいけないこと

税務調査で不用意な発言をしないよう税理士から注意を受けている中小企業経営者のイメージ|寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)

言ってはいけない発言①:不必要な自己開示

「うちは交際費をけっこう使っているんです」「社長の車も会社の経費にしています」など、調査官が質問していない事項を自分から話すことは禁物です。調査官は納税者の「自発的な発言」をヒントに調査範囲を広げることがあります。聞かれたことにだけ、簡潔に答えてください。

言ってはいけない発言②:「だいたいこんな感じです」

帳簿の数字について「だいたい月100万くらいの売上です」「おおむね合っていると思います」などのあいまいな回答は避けてください。調査官は「正確に把握していない=管理が緩い」と判断し、さらに深く調査します。正確にわからない場合は「確認してからお答えします」と答えてください。

やってはいけないこと:書類・データの隠滅・移動

調査官が来た直後に書類をシュレッダーにかける・PCのデータを削除するなどの行為は「証拠隠滅」として重加算税や刑事責任の対象になります。絶対に行わないでください。仮に不都合な書類があったとしても、到着後の隠滅はリスクを何倍にも高めます。

やってはいけないこと:社長一人で全対応する

社長や経理担当者が一人で対応すると、不用意な発言・過剰な情報提供・感情的な対応が起きやすくなります。税理士が到着するまでは「確認してからお答えします」を繰り返し、対応窓口を税理士に一本化することが最善です。

現況調査と通常の任意調査の違い

現況調査は通常の任意調査と手続き上いくつかの違いがあります。把握しておくことで、当日に「これは何の手続きか」を理解して冷静に対応できます。

比較項目 通常の任意調査 現況調査(抜き打ち)
事前通知 原則あり(国税通則法74条の9) なし(74条の10)
調査開始日の認定 事前通知後の調査開始日 臨場した日
修正申告の加算税優遇 通知後〜調査前:5% 臨場後:原則10%〜
調査場所 会社・自宅など事前に確認 突然の臨場のため任意の場所
日程の変更 調整可能(通常) 理由によっては当日断って後日調整も可
💡 現況調査では加算税の優遇(5%)が使えない

通常の任意調査では事前通知から調査開始前の期間に自主的に修正申告すれば加算税5%が適用されます。しかし現況調査は事前通知なしに調査が始まるため、その優遇措置を使う時間的余裕がありません。日頃から帳簿・書類を整備し、いつ調査が来ても対応できる状態を維持することが最大のリスク対策です。

抜き打ちリスクを下げる日常の対策

現況調査の対象になりにくい会社にするための日常的な対策を整理します。

対策項目 具体的な対応
現金売上の管理 レジ・POSシステムを導入しすべての現金売上を記録。日次で現金出納帳を締める
申告の正確性 業種平均の利益率と大きく乖離した申告をしない。利益率が低い場合はその理由を説明できるようにしておく
帳簿・書類の整備 いつ調査官が来ても提示できる状態に日常から整備。領収書・請求書・タイムカードを所定の場所で保管
税理士との連携 月次訪問・決算前チェックを通じて処理の誤りを早期発見。緊急連絡先を常に把握しておく
申告の継続 無申告・期限後申告は現況調査のリスクを大幅に高める。期限内の正確な申告を徹底する

寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)の税務調査対応

突然の調査官来訪で最も重要なのは「最初の10分の対応」です。その場で何を言い・何を渡し・何を断るか——その判断が調査全体の流れを大きく左右します。弊所では緊急時の連絡対応体制を整えており、「今まさに調査官が来ている」というご連絡にも速やかに対応しています。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 現況調査と査察(マルサ)はどう違いますか?

現況調査は税務署の調査官が令状なしに行う任意調査の一形態です。査察(マルサ)は国税局査察部が裁判所の令状を取得して行う強制調査で、大規模な脱税事件に適用されます。現況調査は任意調査であるため、正当な理由があれば日程変更の交渉が可能です。

Q2. 調査官が来たとき、社長が不在の場合はどうすればいいですか?

社長不在の場合は「責任者が不在のため対応できません。後日改めてご連絡ください」と伝えることができます。その際、調査官の氏名・所属・連絡先を控えておき、すぐに社長と顧問税理士に連絡してください。その場で帳簿・書類を渡す必要はありません。

Q3. 現況調査が来た場合、修正申告の加算税は必ず10%になりますか?

現況調査では事前通知がないため、臨場した日が「調査開始日」となります。修正申告が必要な場合、調査開始後の修正申告として原則10%(50万円超の部分は15%)の過少申告加算税が課されます。ただし帳簿に誤りがなければ追加税は発生しません。日頃の帳簿整備が最大の対策です。

Q4. 飲食業を経営しています。現況調査のリスクを下げるにはどうすればいいですか?

POSレジの導入・日次の現金出納帳作成・売上と入金の照合を日常的に行ってください。業種平均と比べて利益率が著しく低い場合は、その理由を説明できる記録(食材ロス記録・廃棄記録など)を残しておくことが有効です。顧問税理士と月次で帳簿確認を行う体制が最大のリスク低減策です。

Q5. 調査官を怒鳴りつけたり部屋から追い出したりすると、どうなりますか?

調査を物理的に妨害したり正当な理由なく拒否した場合、国税通則法127条に基づき1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。また感情的な対応は調査官に「やましいことがある」という印象を与え、調査が長期化・深化するリスクを高めます。どんな状況でも冷静に、「顧問税理士が来るまでお待ちください」と対応してください。

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記事監修

寺田 慎也(てらだ しんや)
寺田税理士事務所 代表 / 社労士法人フォーグッド 代表社員 / 株式会社フォーグッドコンサルティング 代表

【保有資格】税理士、特定社会保険労務士
【専門分野】税務顧問、確定申告、税務調査対応、社会保険手続き、給与計算、労務相談、助成金申請支援
【組織体制】創業75年の実績を持つ専門家集団。スタッフ20名、税理士2名・社労士6名(うち特定社労士2名)が在籍し、大阪・東京の2拠点で全国450社以上の企業をサポート。

【代表者の実績・メディア掲載】
・テレビ朝日系列「羽鳥慎一モーニングショー」専門家として複数回出演(2024年5月・6月、2025年8月)
・PRONIアイミツ「税理士と社労士が在籍するおすすめ事務所」実績部門 4年連続全国1位
・中央経済社『税務弘報』にて連載執筆中
・著書:『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』(幻冬舎、2018年)
・著書:『雇用関係助成金申請・手続マニュアル』(日本法令、2020年)

事務所公式サイト:https://taxlabor.com/

本記事に掲載している内容は、2026年3月時点の情報をもとにしています。法令・制度に関する情報は執筆時点のものであり、その後の改正により変更される場合があります。最新情報は各省庁の公式サイトまたは専門家にご確認ください。

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