労基署へのタレコミ・通報による調査|申告監督の流れ・匿名性・会社側の対応

公開日: 2026.03.24

最終更新日: 2026.03.15

労基署へのタレコミ・通報による調査|申告監督の流れ・匿名性・会社側の対応|寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)


――「退職した社員にタレコミされたかもしれない」「労基署から突然連絡が来た」「在職中の従業員が申告するとは思っていなかった」。従業員や元従業員による労基署への申告(タレコミ・通報)は、経営者にとって最も予測しにくい調査の端緒です。申告監督は違反発見率が高く、残業代未払いや長時間労働が確認されれば是正勧告・場合によっては送検に至ります。約450社の中小企業をサポートしてきた税理士・特定社労士が、申告監督の実態と会社側の対応ポイントを解説します。

申告監督とはどんな調査か——タレコミから調査が始まる仕組み

労基署への申告監督の仕組みを確認する経営者のイメージ

申告監督とは、労働者(従業員・元従業員)が労働基準監督署に対して「法令違反がある」と申告したことをきっかけに行われる調査です。労働基準法第104条は「事業場に法令違反がある場合、労働者は監督署に申告できる」と明記しており、申告を理由とした解雇・不利益取扱いを禁止しています(同条2項)。

申告監督は定期監督(計画的な調査)とは異なり、申告の内容に沿って確認が進むため、違反発見率が定期監督よりも高い傾向にあります。残業代未払い・長時間労働・ハラスメントに伴う強制退職など、従業員が「おかしい」と感じた事柄が申告の主なきっかけです。

項目 定期監督 申告監督
発端 監督署の年間計画 従業員・元従業員の申告
事前通知 あることが多い 「定期監督」として通知される場合あり
確認の焦点 幅広く全般的に確認 申告内容を中心に重点的に確認
違反発見率 約70%前後 さらに高い傾向(申告内容が具体的なため)

申告できる人・申告できる内容

労基署への申告は、現在その会社で働いている従業員だけでなく、退職した元従業員も行うことができます。在職中・退職後を問わず、労働基準法違反の事実があれば申告の対象となります。

申告できる主な内容

申告の対象となる主な事項は次の通りです。残業代(割増賃金)の未払い・計算誤り、36協定を超えた時間外労働、最低賃金以下の賃金、不当解雇・雇い止め、年次有給休暇の未付与・強制取得禁止、労働条件通知書の不交付、就業規則の未整備・未周知、ハラスメントに起因する強制退職、安全衛生管理の不備(機械設備の危険など)です。

💡 在職者の申告が増えている背景
かつては「退職してから申告する」ケースが主流でしたが、近年は在職中の従業員による申告も増加しています。公益通報者保護法(2022年改正)による保護範囲の拡大、SNS・転職サイトでの情報共有、労働組合・ユニオンのサポート体制の整備などが背景にあります。「辞めてから言う」ではなく「在職中に改善を求める」という意識の変化が起きています。

申告者の匿名性はどこまで守られるか

「誰が申告したか」を事業主に知らせることは、労基署の運用として原則として行いません。申告者の氏名・申告内容の詳細が事業主側に伝えられることは基本的にないため、事業所側は申告者を特定することが困難です。

法的な保護

労働基準法第104条第2項は、「申告をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱い」を禁止しています。申告を理由に解雇・降格・減給・嫌がらせを行った場合は、同法違反として処罰の対象となります(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。

⚠ 「誰がタレコミしたか」を探すことの危険性
申告者を特定しようとする行為(聞き込み・メール調査・不自然な異動など)は、それ自体が「不利益取扱いの予備行為」とみなされるリスクがあります。申告監督の通知を受けた後は、申告者の特定を試みることなく、事実確認と是正対応に集中することが重要です。

「完全匿名」ではないケースもある

申告内容が非常に具体的(「○月○日に残業した記録がある」など)な場合、申告者が誰かは事業主が察する場合があります。また調査の中で監督官が申告者への個別ヒアリングを行うこともあり、その際に申告者の存在が間接的に明らかになることも完全にゼロではありません。しかし申告者を積極的に特定・追及することは法的リスクを生じさせるため避けるべきです。

「定期監督を装って来る」理由と見分け方

申告監督が定期監督として来訪する実態を確認する社労士のイメージ

申告監督の場合でも、監督署は「定期監督」として来訪するのが実務上の慣行です。これは申告者を特定されないよう保護するための配慮です。そのため会社側は、来訪した監督官が「定期監督」と名乗っていても、実際には申告が背景にある可能性を常に念頭に置く必要があります。

「申告監督かもしれない」と判断するサイン

以下のような状況があった場合は、申告監督の可能性が高いと考えておくことが賢明です。

・直近で退職した従業員(特に不満を持って辞めた方)がいる
・現在も残業代未払いや長時間労働の問題を抱えている
・社内でハラスメントに関するトラブルが発生している
・求人票と実態(賃金・労働時間)に乖離がある
・転職サイト・口コミサイトに労働条件への否定的な投稿がある
・監督官が特定の従業員や特定の期間に絞って質問してくる

💡 申告の有無を監督官に確認することはできるか
「申告がありましたか?」と監督官に直接確認することは可能ですが、監督官が明示的に回答することはほとんどありません。調査の目的は法令遵守の確認であり、申告の有無にかかわらず対応方針は変わりません。申告があったかどうかの追及より、指摘された事実への対応に集中することが重要です。

申告監督の流れ——申告から是正まで

申告監督は、申告の受理から調査・是正指導・是正完了までの一連の流れで進みます。各段階での対応を把握しておくことが重要です。

STEP1|申告の受理

従業員・元従業員が監督署の窓口・電話・郵便・オンライン等で申告を行います。監督署は申告内容を審査し、調査を行うかどうかを判断します。申告内容が具体的であるほど調査に移行する可能性が高くなります。

STEP2|臨検の通知・来訪

「定期監督」の名目で臨検の通知が届くか、または通知なしで来訪します。申告内容に関連する書類(賃金台帳・タイムカード・36協定・就業規則など)が重点的に確認されます。申告に関係する従業員へのヒアリングが行われることもあります。

STEP3|是正勧告・指導

違反事項が確認された場合、是正勧告書または指導票が交付されます。申告に起因する調査の場合、指摘内容が申告した従業員の権利回復(未払い賃金の支払いなど)に直結するため、是正の実施状況が厳しく確認されます。

STEP4|是正報告と申告者への通知

是正報告書を提出した後、監督署から申告者に対して「調査結果の通知」が行われることがあります(申告者が希望した場合)。是正が完了すれば申告監督は終了ですが、是正が不十分と判断された場合は再監督・送検に至ることがあります。

会社側の初動対応——通知を受け取ったらやること

臨検監督通知を受け取り対応を検討する経営者と社労士のイメージ

臨検の通知(申告監督の可能性を含む)を受け取ったら、まず落ち着いて以下の順番で初動対応を進めます。

① 直近の退職者・問題を抱えている従業員の状況を確認する
申告の端緒を把握するためではなく、申告内容を予測して事前準備を整えるためです。残業代未払い・長時間労働・ハラスメントなど、心当たりのある事項を洗い出します。

② 賃金台帳・勤怠記録・36協定を突合する
申告監督で最も頻繁に確認されるのは労働時間と賃金の関係です。タイムカード・勤怠システムの記録と賃金台帳の支払い時間が一致しているかを確認し、未払い残業代がある場合は算定を進めます。

③ 社労士に連絡する
申告監督の可能性がある場合は、書類の点検・当日の立会い・是正対応のすべてを専門家とともに進めることをお勧めします。通知から来訪まで時間が短いため、早期の相談が重要です。

⚠ やってはいけない初動対応
・申告者と思われる従業員への聞き込みや圧力
・問題のある書類の修正・廃棄・隠蔽(証拠隠滅は刑事リスクを生じます)
・監督官への虚偽説明
・申告者と思われる従業員の解雇・異動・嫌がらせ
これらの行為は違反を悪化させ、送検リスクを高めます。

タレコミを防ぐための職場環境整備

申告監督の根本的な予防策は、申告される原因を作らないことです。日常的な法令遵守と従業員との信頼関係の構築が最善の対策となります。

① 残業代を正確に計算・支払う
申告の最大の原因は残業代未払いです。固定残業代の設計・割増賃金の計算基礎・深夜割増の計算を定期的に点検し、正確な支払いを徹底します。

② 労働時間の実態を把握・管理する
「記録上は定時」でも実態は残業している状態を放置すると、記録と実態の乖離が申告の根拠となります。勤怠管理システムの適切な運用と、サービス残業が発生しない職場環境の整備が重要です。

③ 有給休暇を取得させる
有給休暇の取得を妨げたり、申請しにくい雰囲気を作ったりすることは、不満を蓄積させる原因の一つです。年5日の時季指定義務を果たすだけでなく、取得しやすい職場環境づくりが申告予防につながります。

④ 社内相談窓口を整備する
従業員が不満や問題を社内で相談できる仕組みがあれば、外部(労基署)への申告に至る前に解決できるケースが増えます。ハラスメント相談窓口・労働条件に関する相談ルートを整備し、機能させることが重要です。

⑤ 退職者へのきちんとした対応
退職時の最終給与・未払い残業代・未使用有給休暇の清算を適切に行うことが、退職後の申告を防ぐ最も有効な手段の一つです。退職時の合意書・清算確認書の取り交わしを標準化することをお勧めします。

弊所の対応体制

「タレコミがあったかもしれない」「突然監督官が来た」——そのような状況でもすぐにご相談いただけます。申告監督は通知から来訪まで時間がない場合がほとんどです。早期の連絡が対応品質を左右します。

寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)は、特定社労士を含む社労士6名体制で、申告監督への緊急対応から再発防止までをサポートします。

  • 緊急の書類点検(賃金台帳・勤怠記録・36協定・就業規則)
  • 調査当日の立会い対応
  • 未払い残業代の算定と支払い計画の策定
  • 是正勧告・指導票への対応(是正報告書作成)
  • 申告者への対応に関する法的アドバイス
  • 再発防止のための労務管理体制の整備

大阪・東京の2拠点対応。450社以上の顧問実績。まずはお気軽にご相談ください。

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監修者情報
寺田慎也(税理士・特定社会保険労務士)
税理士歴23年。テレビ朝日モーニングショー出演(2024年5月・6月、2025年8月)。PRONIアイミツ4年連続全国1位。税務弘報連載中。著書2冊(幻冬舎2018・日本法令2020)。創業75年・スタッフ20名・大阪東京2拠点・450社以上。
監修チーム:税理士2名・社労士6名(うち特定社労士2名)、株式会社フォーグッドコンサルティング含む。

よくあるご質問

Q1. 在職中の従業員が匿名で申告することはできますか?

できます。労働基準法第104条は在職中の従業員による申告を認めており、申告を理由とした不利益取扱いを禁止しています。監督署への申告は窓口・電話・郵便・オンラインなど複数の方法で行えます。氏名を伏せた申告も受け付けられますが、匿名の場合は監督署が事実確認できる具体的な内容が求められます。

Q2. 申告した従業員を解雇することはできますか?

できません。労働基準法第104条第2項は「申告をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱い」を明確に禁止しており、違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。申告者への解雇・降格・減給・嫌がらせはすべて同法違反です。

Q3. 退職した元従業員からの申告でも調査が来ますか?

来ます。元従業員による申告も現役従業員と同様に受理されます。退職後の申告でも在職中の違反事実(残業代未払い・有給未取得強制など)が調査対象となります。退職時の清算を適切に行うことが退職後の申告を防ぐ最善策です。

Q4. 申告監督で未払い残業代が発覚した場合、いつまで遡って払う必要がありますか?

2020年4月1日以降に支払い期日が到来した賃金については消滅時効が3年です(改正労働基準法第115条)。それ以前の分は2年です。申告監督では申告者が申告した事実に基づいて確認が行われるため、申告内容の時期に応じた遡及請求となります。

Q5. 「定期監督」として来た監督官が申告監督かどうか確認できますか?

直接確認することは可能ですが、監督官が申告の有無を明示することはほとんどありません。申告監督か定期監督かにかかわらず、対応の基本姿勢は変わりません。求められた書類を正確に提示し、事実を正直に説明することが最善の対応です。

Q6. 申告監督への対応に社労士を同席させることはできますか?

できます。社会保険労務士は臨検への立会いを業務として行うことができます。申告監督の場合、申告内容に関連した書類の対応・監督官への説明・その場での是正方針の提示など、専門家のサポートが特に有効です。申告の可能性がある場合は早期に社労士へ相談することをお勧めします。

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※本記事は2026年3月時点の法令・制度に基づいています。法改正等により内容が変更になる場合があります。個別の事案については税理士・社会保険労務士にご相談ください。

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