最低賃金、上げ幅より深刻な「発効日の地域差」――東京と秋田で6か月差の現実
公開日: 2026.02.28

――「東京は10月3日、秋田は翌年3月31日」。同じ2025年度の最低賃金引き上げなのに、発効日に約6か月の差がある。金額が低い地方ほど発効日も遅い「二重の格差」構造が、近年さらに拡大している。約450社の中小企業をサポートしてきた税理士・社労士が、データとともに解説します。
最低賃金は上がった。でも「いつ上がるか」は県によって違う
毎年秋、最低賃金の改定ニュースが報じられる。「全国平均で66円引き上げ」「全都道府県で初めて1,000円超え」といった見出しが並んだ2025年度も例外ではなかった。しかしもう一つの重要な情報が、ほとんど注目されていない。それが「発効日」——つまり「いつから新しい賃金が適用されるか」という日付だ。
最低賃金は国が全体の方針(目安)を示した後、各都道府県の地方最低賃金審議会が審議を経て具体的な金額と発効日を決定する。この仕組み上、都道府県によって発効日にばらつきが生じる。2024年度まではそのばらつきは概ね10月から11月の間に収まっていた。ところが2025年度は様相が一変した。
厚生労働省が公表した令和7年度地域別最低賃金の全国一覧によると、最も早い発効は栃木県の令和7年10月1日、最も遅い発効は秋田県の令和8年3月31日。その差は実に約6か月にのぼる。
「低くて遅い」――地方に重なる二重の格差
問題の本質は、金額の格差と発効日の格差が同じ方向に重なっている点にある。最低賃金が低い地方の県ほど、発効日も遅い傾向が見られるのだ。
東京都:時間額 1,226円・発効日 令和7年10月3日
秋田県:時間額 1,031円・発効日 令和8年3月31日
金額差:195円/発効日の差:約6か月
月160時間労働の場合、月あたりの収入差は 31,200円(概算・前提明示)
秋田県の労働者は、東京の労働者が10月から新しい賃金で働いている間、3月末まで旧来の賃金のまま働き続けることになる。「いくらもらえるか」だけでなく「いつからもらえるか」も含めて考えると、地方と都市部の格差は数字以上に大きい。
2025年度の発効日分布――データで見る分散の実態
厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」をもとに、発効月別の件数を集計した。
| 発効時期 | 件数 | 主な都道府県 |
|---|---|---|
| 令和7年10月 | 19都道府県 | 栃木・東京・神奈川・千葉・新潟・長野・滋賀・兵庫・鳥取など |
| 令和7年11月 | 13都道府県 | 埼玉・静岡・広島・鹿児島・和歌山・三重・京都・青森など |
| 令和7年12月 | 9都道府県 | 岩手・山梨・岡山・愛媛・高知・長崎・沖縄・山形など |
| 令和8年1月 | 4都道府県 | 福島・徳島・熊本・大分 |
| 令和8年3月 | 2県 | 群馬(令和8年3月1日)・秋田(令和8年3月31日) |
2024年度との比較――何が変わったのか
この状況は以前からあったわけではない。2024年度(令和6年度)の発効日は、徳島県(11月1日)を除く全都道府県が10月中に発効していた。最も遅い岩手県でも10月27日であり、ほぼ「秋の一か月」に収まっていたと言える。
ところが2025年度は発効が翌年の1月、さらには3月にずれ込む県が複数登場した。名称上は「2025年度」の引き上げでありながら、実際に適用されるのは2026年の春という事態になっている。過去最大の引き上げ幅(全国平均66円)に対応するための審議長期化が、一因とみられる。
地方最低賃金審議会は中央審議会の目安答申を受けてから審議を開始する。審議には関係者からの意見聴取・異議申出期間が設けられており、今年度は労使の折り合いがつかない県が多く、例年8月中に出る答申が9月にずれ込んだ県もあった。こうした手続きの積み重ねが翌年発効につながっている。
「準備期間」か「先送り」か――問われる透明性
発効が遅れることには、事業者が賃金改定に備える時間が確保できるという側面もある。特に中小企業・小規模事業者にとって、賃金の引き上げは経営に直結する問題であり、準備期間の必要性は理解できる。
一方で、労働者の視点からは「決まった引き上げがいつ届くのか」が見えにくい。しかも遅延の理由や周知の状況は都道府県によって異なり、統一された説明責任の基準がない。
こうした問題意識は制度を議論する場にも届きつつある。令和8年2月27日に開催された第72回中央最低賃金審議会では、「目安制度の在り方に関する検討の進め方」が正式な議題となった。発効日の分散・遅延を含む制度的課題が、国レベルの検討テーブルに乗り始めたと言える。2026年度の審議においても、発効日の問題は引き続き論点となる可能性が高い。
① 発効日を遅らせる具体的な理由の公表
② 労働者・事業者双方への十分な事前周知
③ 翌年度以降の発効日分散を繰り返さないための仕組みづくり
まとめ:最低賃金は「金額+発効日」で読む時代へ
最低賃金のニュースは「いくら上がるか」だけに注目が集まりがちだ。しかし2025年度のデータが示すように、「いつから上がるか」という発効日もまた、生活者の実感に大きく関わる問題である。
金額が低く発効日も遅い地方の現実は、「二重の格差」として可視化される必要がある。第72回中央最低賃金審議会での制度見直し議論が始まったいま、発効日の透明性と説明責任を求める声はより重要になっている。最低賃金のニュースを受け取るとき、金額と発効日の両方をセットで確認してほしい。
よくある質問
Q. 最低賃金の発効日はいつ決まるのですか?
各都道府県の地方最低賃金審議会が、中央最低賃金審議会の目安答申をもとに審議・答申し、都道府県労働局長が決定します。異議申出の手続き期間なども含まれるため、都道府県によって発効日が異なります。
Q. 2025年度で発効日が最も遅い都道府県はどこですか?
秋田県で、令和8年3月31日が発効日です。最も早い栃木県(令和7年10月1日)と比べると、約6か月の差があります。
Q. 発効日前でも事業者が自主的に引き上げることはできますか?
できます。発効日はあくまで法的な最低基準の適用開始日です。事業者が発効日より前に自主的に賃金を引き上げることは法的に問題なく、むしろ労働者の定着・採用面でプラスに働く場合があります。
Q. 2026年度以降も発効日の分散は続く可能性がありますか?
可能性はあります。令和8年2月27日の第72回中央最低賃金審議会では「目安制度の在り方」の検討が始まりましたが、制度的な解決には時間がかかる見込みです。政府が「2020年代に全国平均1,500円」の目標を掲げている以上、大幅引き上げが続く年度では同様の事態が起きるリスクがあります。
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記事監修
寺田税理士事務所 代表 / 社労士法人フォーグッド 代表社員 / 株式会社フォーグッドコンサルティング 代表
【保有資格】税理士、特定社会保険労務士
【専門分野】税務顧問、確定申告、税務調査対応、社会保険手続き、給与計算、労務相談、助成金申請支援
【組織体制】創業75年の実績を持つ専門家集団。スタッフ20名、税理士2名・社労士6名(うち特定社労士2名)が在籍し、大阪・東京の2拠点で全国450社以上の企業をサポート。
【代表者の実績・メディア掲載】
・テレビ朝日系列「羽鳥慎一モーニングショー」専門家として複数回出演(2024年5月・6月、2025年8月)
・PRONIアイミツ「税理士と社労士が在籍するおすすめ事務所」実績部門 4年連続全国1位
・中央経済社『税務弘報』にて連載執筆中「新・労務知識アップデート講座」
・著書:『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』(幻冬舎、2018年)
・著書:『雇用関係助成金申請・手続マニュアル』(日本法令、2020年)
事務所公式サイト:https://taxlabor.com/
税理士・社労士が在籍する事務所だからこそ、労務と税務を一体でサポートします。
本記事は令和8年2月28日時点の情報をもとに作成しています。最低賃金の金額・発効日は変更される場合があります。最新情報は厚生労働省または各都道府県労働局にてご確認ください。本記事の内容を引用・転載される場合は、出典として当事務所サイトのURLを明記のうえご利用ください。


