【2026年3月通達】「国保逃れスキーム」に厚労省が規制—社会保険料削減サービスの加入者はすぐ確認を|税理士・社労士が解説
公開日: 2026.03.19

1. 「国保逃れスキーム」とは何か——問題の全体像
2. 社会保険料削減スキームの具体的な構造
3. 通達が示した判断基準のポイント
4. なぜ今、この通達が出たのか——数十事業者の調査も開始
5. 企業・事業主として注意すべきこと
6. まとめ
7. よくあるご質問
8. 弊所の対応体制
――令和8年(2026年)3月18日、厚生労働省が「国保逃れスキーム」に対する通達を発出しました。個人事業主・フリーランスを形式的に法人役員として社会保険に加入させ、実質的には国民健康保険より低い保険料を享受させる「社会保険料削減スキーム」に対し、行政として明確な判断基準が示されるとともに、勧誘事業者への調査も開始されています。このスキームに加入している方・勧誘を受けた方は、早急に専門家への相談をお勧めします。
「国保逃れスキーム」とは何か——問題の全体像
令和8年(2026年)3月18日、厚生労働省から「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(保保発0318第1号/年管管発0318第1号)が発出されました。全国健康保険協会・健康保険組合・日本年金機構を宛先とするこの通達は、「社会保険料削減スキーム」「国保逃れスキーム」と呼ばれる行為に対し、行政として明確な歯止めをかけるものです。
「国保逃れスキーム」とは、本来は国民健康保険(国保)に加入すべき個人事業主・フリーランスが、一般社団法人などの法人役員に形式的に就任することで社会保険(社保)に加入し、保険料負担を大幅に引き下げる手法です。SNSや一部業者を通じて広がり、近年では政治家・著名人が利用していたことが報道で問題視されています。
「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」
保保発0318第1号/年管管発0318第1号
令和8年(2026年)3月18日 厚生労働省保険局保険課長・年金局事業管理課長
社会保険料削減スキームの具体的な構造
通達が指摘している社会保険料削減スキームは、以下の5ステップで構成されています。一見すると合法的な役員報酬の活用に見えますが、実態が伴わない点が核心的な問題です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① | 「社会保険料を削減できる」とうたう事業者が個人事業主・フリーランスを勧誘 |
| ② | 個人事業主等を形式的に法人の役員として登記・届け出る |
| ③ | 低い報酬額で健康保険・厚生年金の被保険者資格を取得させる |
| ④ | 個人事業主等は役員報酬を上回る額を「会費」等の名目で事業者に支払う |
| ⑤ | 結果として、本来国保・国民年金に加入すべき者が、実態を伴わない低い報酬に基づく低額の社会保険料を享受する |
報酬より高い「会費」を払いながら形だけ役員になって社会保険に加入する——役員としての実態(指揮命令・業務従事)が存在しないにもかかわらず、低い報酬額に基づく低額の保険料で健康保険・厚生年金の給付を受けられる状態を作り出しています。社会保障に詳しい専門家からは「制度へのフリーライド(ただ乗り)だ」との批判も出ており、正規に保険料を納めている事業者・個人に対して著しく不公平です。
通達が示した判断基準のポイント
通達では、法人の役員とされた個人事業主等について、被保険者資格に疑義がある場合の具体的な確認・判断方法を年金事務所や健康保険組合等に対して指示しています。判断の核心は「実態として使用関係が存在するか」です。
| 確認項目 | 具体的な着眼点 |
|---|---|
| 使用関係の実態 | 法人との間に実態ある使用関係(指揮命令・業務従事)が存在するか |
| 報酬の適正性 | 役員報酬が実際の業務実態に見合った適正な水準か |
| 会費等の介在 | 役員報酬を上回る会費等の支払いがあるなど、経済的合理性のない取引が介在していないか |
| 加入目的 | 法人への加入が社会保険料削減を主目的として勧誘・組成されたものでないか |
通達はさらに、役員としての業務が「アンケートへの回答や勉強会への参加のみ」「単なる活動報告・情報共有」「事業の紹介への単なる協力」にとどまる場合は、法人経営への参画を内容とする経常的な労務の提供とは認められないと明示しています。
これらに該当すると判断された場合、年金事務所や健康保険組合が被保険者資格を否認し、資格喪失の届出を提出させることができることが明確化されました。遡及調査・追徴のリスクも伴います。
なぜ今、この通達が出たのか——数十事業者の調査も開始
社会保険制度の持続可能性を確保するうえで、保険料負担の公平性は制度の根幹です。国保逃れスキームが横行すれば、正規に保険料を納めている事業者・個人が不利益を被るだけでなく、制度全体の信頼が損なわれます。
背景には、SNSや一部業者を通じた「社会保険料削減サービス」の急速な拡大があります。報道によれば、あるスキームには600〜700人が加入し、月1,200万円・年間1億円超の収益を上げていた業者も存在したとされています。政治家を含む著名人の利用が報じられたことで社会問題化し、今回の通達発出に至りました。
今回の通達発出と合わせて、厚生労働省は「国保逃れ」を勧誘しているとみられる数十の事業者を対象に調査を開始しています(テレビ朝日等の報道による)。日本年金機構の年金事務所も社会保険料削減スキームを手掛ける事業者への調査に着手しており、今後は加入者本人への遡及調査・追徴が広がる可能性があります。
企業・事業主として注意すべきこと
合法的な社会保険料の負担軽減策は存在しますが、実態のない役員関係を使った国保逃れスキームは、被保険者資格の否認・資格喪失の対象となることが通達で明確化されました。遡及して保険料を追徴されるリスクがあります。「安くなるから」という理由だけで加入した場合も同様です。
① 勧誘には応じない
「社会保険料を大幅削減できる」「国保より安くなる」という勧誘には応じないことが大原則です。実態のない役員登記を伴うスキームは、遡及して被保険者資格を否認されるリスクがあります。
② 役員報酬は業務実態に見合った適正額を設定する
報酬より高い会費等の支払いを求めるスキームは通達の指摘対象です。役員としての業務実態と報酬のバランスが問われます。
③ 既に類似スキームを利用している場合は早急に専門家に相談する
遡及調査・追徴のリスクがあります。現状を放置せず、できるだけ早期に顧問の税理士・社会保険労務士に相談してください。現在調査が開始されているため、時間的余裕は多くありません。
④ 年金事務所の調査・照会には誠実に対応する
使用実態の確認が強化されています。調査が入った際は、使用関係・業務実態を示す書類(議事録・業務日報・指示書等)の整備が重要になります。
まとめ
令和8年3月18日付の厚生労働省通達により、「国保逃れスキーム」「社会保険料削減スキーム」と呼ばれる手法について、被保険者資格を否認するための具体的な判断基準が明確化されました。同時に、勧誘事業者への調査も開始されており、加入者本人への遡及調査・追徴が広がる可能性があります。
社会保険は実態で判断される制度です。「仕組みだけ整えれば問題ない」という考えは通用しなくなりました。現在このスキームを利用している方・利用を検討している方は、早急に専門家にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 国保逃れスキームに加入しているかどうか、自分で判断できますか?
判断のポイントは「役員報酬より高い会費等を法人に支払っているか」「役員として実際に指揮命令・業務従事をしているか」の2点です。「社会保険料削減サービス」として勧誘を受け、月々の会費・協力金を支払いながら社会保険に加入している場合は、今回の通達の対象となる可能性が高いため、早急に社会保険労務士にご相談ください。
Q. すでにスキームを利用中ですが、今から脱退すれば問題ありませんか?
脱退するだけでは遡及調査・追徴を回避できるとは限りません。年金事務所や健康保険組合は、加入期間中の実態を遡って確認することができます。脱退を検討する場合も、対応の順序や追徴リスクの試算を含めて、必ず専門家(社会保険労務士・税理士)に相談してから手続きを進めてください。
Q. 勉強会や情報交換のみの役員業務では、社会保険の加入は認められませんか?
通達は、業務が「アンケートへの回答や勉強会への参加のみ」「単なる活動報告・情報共有」「事業の紹介への単なる協力」にとどまる場合は、法人経営への参画を内容とする経常的な労務の提供とは認められないと明示しています。役員としての具体的な指揮監督・決裁権行使・定期的な会議出席と実務従事が伴っていない限り、社会保険の被保険者資格は否認されます。
Q. 自分でマイクロ法人を設立して社会保険に加入する「マイクロ法人スキーム」も今回の通達の対象になりますか?
今回の通達が直接対象としているのは「他者が運営する法人に形式的に役員として加入するスキーム」です。自身で設立したマイクロ法人は直接の対象外ですが、実態のない法人や著しく低い報酬設定は、別途、社会保険調査や税務調査で問題となる可能性があります。マイクロ法人を利用した社会保険料削減については、個別に専門家にご確認ください。
Q. 年金事務所から調査の連絡が来た場合、どう対応すればよいですか?
調査には誠実に対応することが原則です。使用関係・業務実態を示す書類(役員会議事録・業務日報・指示書・出勤記録等)を速やかに準備してください。ただし、スキームへの加入が疑われる状況での調査対応は、回答内容によって追徴額や処分の範囲が変わることがあります。調査通知を受けた段階で、できる限り早く社会保険労務士に相談することを強くお勧めします。
寺田慎也(税理士・特定社労士)
寺田税理士・社会保険労務士事務所(社労士法人フォーグッド)代表。税理士歴23年。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」出演(2024年5月・6月、2025年8月)。PRONIアイミツ「税理士と社労士が在籍するおすすめ事務所」実績部門4年連続全国1位。税務弘報(中央経済社)連載中。著書2冊(幻冬舎2018・日本法令2020)。創業75年・スタッフ20名(税理士2名・社労士6名、うち特定社労士2名)・大阪東京2拠点・顧問先450社以上。
※本記事は2026年3月時点の法令・通達・報道等に基づいて作成しています。今後の運用指針・省令等により詳細な取り扱いが変更となる場合があります。実際の実務判断は顧問税理士・社会保険労務士にご相談ください。

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