給付付き税額控除の仕組みと5つの課題|税理士・社労士が徹底解説

公開日: 2025.10.12

「減税と給付がセットになった、暮らしを助ける新しい仕組み」として、今「給付付き税額控除」の導入が本格的に話し合われています。メディアでは良い面がよく紹介されていますが、この記事では専門家の視点から、その仕組みと、知っておきたい大切なポイントを深く掘り下げていきます。

「給付付き税額控除」って、そもそも何?

まず、今まさに検討されている「給付付き税額控除」がどんな制度なのか、基本的な仕組みを見ていきましょう。この制度の一番のポイントは、所得税を納めている人も、そうでない人も、みんなが公平にサポートを受けられることを目指している点です。

(2025年 給付付き税額控除のイメージ)

例えば、政府が「国民の負担を一人あたり4万円軽くします」と決めた場合、上のイラストのように、その人の所得(納税額)によってサポートの形が変わります。

  • Aさん(納税額が4万円より多い方):

    例えば納める所得税が5万円だった場合、そこから4万円が直接引かれます(税額控除)。納税額は1万円になり、結果として手元に残るお金が4万円増えることになります。

  • Bさん(納税額がちょうど4万円の方):

    納める所得税がぴったり4万円だった場合、そこから4万円がまるごと引かれるため、納税額はゼロになります。この場合も、手元に残るお金が4万円増えます。

  • Cさん(納税額が4万円より少ない方):

    例えば所得税の額が2万円だった場合、まず納税がゼロになります。そして、引ききれなかった残りのお金、2万円があなたの口座に振り込まれます。

  • Dさん(住民税非課税などで納税額がない方):

    引かれる税金がないため、4万円がまるごと現金で振り込まれます。これまでの減税だけでは恩恵が届きにくかった方々にも、しっかり支援が届くのが大きな特徴です。

このように、その人の状況にあわせて「減税」と「給付」を使い分けることで、より公平な支援を目指すのが、この制度の基本的な考え方です。


【専門家の視点】「いい話」の裏にある5つの課題

この理想的な仕組みの一方で、私たち専門家の目から見ると、手放しでは喜べない、大事な克服すべき5つの課題が見えてきます。皆さんの暮らしに直接かかわる制度だからこそ、その良い面と注意すべき面の両方を知っておくことが大切です。ここからは、この制度がかかえている5つの根本的な問題について、やさしく解説していきます。

課題1:そのお金はどこから? 将来への負担も考えて

まず、いちばん根本にあるのが「お金はどこから来るの?」という問題です。減税をしたり、お金を配ったりするには、莫大なお金が必要です。もし国の借金でまかなえば、その負担は将来の子どもたちに回っていきます。あるいは、この制度と引き換えに、別の税金や社会保険料が上がる可能性もゼロではありません。「負担のない給付はない」という視点も大切です。

課題2:見えないコストの問題。現場は対応できる?

フリーランスや副業など働き方が多様化する中で、国民一人ひとりの所得を正確に、そして素早く把握するのは、行政にとって、とても大変な仕事になります。「その人にあった適切な支援」という考えを実現するには、新しいシステムを作ったり、人を増やしたりするのに、とても大きなコストがかかります。そのコストも、もとをたどれば私たちの税金です。

課題3:定額減税の経験。あの混乱をくり返さないために

ここで、記憶に新しい「定額減税」の時のことを思い出してみましょう。
あの制度でさえ、現場では大きな混乱がありました。

  • 自治体のシステム対応: 住民税の計算変更など、急な対応にシステムの改修が追いつかない場面がありました。
  • 会社の給与担当者の大きな負担: 従業員一人ひとりの計算や、自治体への確認などで、会社の担当者には通常業務に加えて重い負担がかかりました。
  • 不公平感や給付の遅れ: 細かい計算のせいで「不公平だ」という声があがったり、実際に支援が届くまで時間がかかったりする問題もありました。

比較的シンプルだった定額減税でさえ、これだけ大変だったのです。それよりも、比べものにならないくらい複雑な「給付付き税額控除」をスムーズに進めるには、もっとしっかりとした準備と、現場に無理をさせない仕組みが欠かせません。

課題4:さらに複雑になる「年収の壁」と「働き控え」の問題

社労士の視点から特に心配なのが、多くの方が気にする「年収の壁」の問題が、さらに複雑になることです。この「壁」には、大きく分けて2種類あることをご存知でしょうか。

  1. 税金の壁:所得税や住民税がかかり始めるライン(例:103万円など)
  2. 社会保険の壁:健康保険や年金の保険料負担が発生するライン(例:106万円、130万円など)

特に「税金の壁」は、毎年のように制度が変わり、もはや専門家でなければ正確な金額を把握するのが難しい状況です。

(税制上の「年収の壁」の金額は年々複雑化している)

このイラストのように、かつて「103万円の壁」と言われていたものも、控除額の見直しによって金額が変わり続けています。多くの方が「いくらまでなら働いて大丈夫?」と悩み、年末になると働き方を調整する「働き控え」が起こる原因にもなっています。

そして今、国民民主党からは、この「103万円の壁」を178万円にまで引き上げるという提案が出ています。これは働く人の手取りを増やす大きなメリットが期待される一方で、同時に最大1兆7,000億円規模という莫大な財源が必要になると言われています。

さらに、高市早苗総裁が生まれ、自公連立の状況も変化する中で、こうした玉木代表の主張が今後どう議論されるのか、政治的な動向も制度設計に大きく影響してくるでしょう。

問題は、ただでさえ複雑な「税金の壁」「社会保険の壁」に加えて、「給付付き税額控除」が導入されると、『給付がもらえるか、もらえないか』という第3の壁が生まれる可能性があることです。

例えば、「年収〇〇万円を超えると給付が打ち切られる」という仕組みになれば、働く人の「働き控え」の問題はさらに深刻になるかもしれません。また、もらった給付金のせいで、かえって国民健康保険料が上がったり、家族の扶養から外れたりすることも考えられます。

税金、社会保険、そして新たな給付制度。これらをバラバラに議論するのではなく、全体としてシンプルで分かりやすい制度に設計し直さなければ、働く人たちの混乱は増すばかりです。

課題5:申請しないともらえない? 誰も置き去りにしない仕組みを

こうした支援は、自分から「ください」と声をあげる(申請する)のが基本です。制度が複雑になると、本当に支援が必要な高齢の方や、情報が届きにくい方々が制度を使えないままになってしまう、「制度の谷間」が生まれる心配があります。誰にとってもやさしく、使いやすい仕組みにすることが求められます。


まとめ:冷静な議論と、賢い選択のために

給付付き税額控除は、格差をなくすための一つの方法として、とても大切な話し合いです。しかし、実際に始めるまでには、今回お話しした5つの課題をはじめ、たくさんの問題点を一つひとつ丁寧にクリアしていく必要があります。

私たち専門家は、皆さんが制度を正しく理解し、賢い判断ができるように、これからも、いろいろな角度から情報をお届けしていきます。

給付付き税額控除は、格差をなくすための一つの方法として、とても大切な話し合いです。しかし、実際に始めるまでには、今回お話しした5つの課題をはじめ、たくさんの問題点を一つひとつ丁寧にクリアしていく必要があります。

私たち専門家は、皆さんが制度を正しく理解し、賢い判断ができるように、これからも、いろいろな角度から情報をお届けしていきます。


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【参考情報】

本記事を作成するにあたり、以下の行政官庁の情報を参考にしています。

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