法人の株式投資、知らないと損する3つのメリットと注意点|経営者のための資産運用術
公開日: 2025.10.04
法人での株式投資は「最強の財務戦略」。メリット・デメリットから始め方まで経営者向けに完全解説

「会社の余剰資金、普通預金に眠らせたままになっていませんか?」
低金利が続き、インフレや円安が静かに資産価値を蝕む現代において、その問いは全ての経営者にとって無視できない課題です。単にコストを削減し、節税に励む「守りの財務」だけでは、企業の持続的な成長は望めません。
これからの時代に求められるのは、会社の資産を積極的に活用し、利益を生み出す「攻めの財務」です。そして、その最も有効な手段の一つが「法人名義での株式投資」です。
「投資は個人でするもの」「専門の部署や担当者が必要で難しそう」といったイメージは、もはや過去のものです。本記事では、なぜ今、法人での株式投資が経営者にとって「新常識」となりつつあるのか、その戦略的なメリットから、デメリットの賢い乗り越え方、そして驚くほど簡単な始め方まで、経営者の視点に立って体系的に解説します。
なぜ今、法人での株式投資が「新常識」なのか?
かつて「現金こそが王様(Cash is King)」と言われた時代もありました。しかし、事業環境は大きく変化しています。法人口座での株式投資が、単なる選択肢ではなく、戦略的な一手として重要性を増している3つの理由を見ていきましょう。
1. 「持っているだけ」で価値が目減りする現金の悲劇
現在の日本は、歴史的な低金利とインフレが同時に進行する難しい局面にあります。銀行に現金を預けても金利はほぼゼロ。一方で、物価は上昇し、円の価値は相対的に下がり続けています。つまり、何もしなければ、会社の購買力は年々確実に失われているのです。この静かなリスクから資産を守り、むしろ成長させるためには、現金(円)を国内外の成長企業の株式(ドル建て資産など)に換えておくという発想が不可欠です。
2. 節税の先へ:「税金を払うための利益」を投資で生み出す
多くの経営者が節税に頭を悩ませていますが、発想を転換してみましょう。経費を使って利益を圧縮するのではなく、「資産運用で得た利益で、法人税を支払う」という考え方です。これにより、本業の利益を温存しながら納税義務を果たすことができ、実質的なキャッシュフローは大きく改善します。これは、法人投資だからこそ可能な、まさに「最強の節税」と言えるかもしれません。
3. 長寿企業に学ぶ「第二の事業」の育て方
創業100年を超える日本の長寿企業の多くは、本業とは別に、不動産や有価証券といった安定した収益源を持っています。これは、本業が時代の変化で不振に陥った際の強力なセーフティネットとなります。法人での株式投資は、この「第二の事業の柱」を育てる第一歩です。短期的な売買益を追うのではなく、長期的な視点で資産を形成することで、企業の安定性と成長性を飛躍的に高めることができます。
経営を変える3つの戦略的メリット
法人での株式投資には、個人の投資にはない、企業経営そのものを変革するほどの強力なメリットが存在します。ここでは、単なる利点ではなく「経営戦略」として3つの側面に分けて解説します。
1. 【攻めの財務】眠れる資金を利益の源泉に
会社の貸借対照表に眠る現預金は、利益を生まない「非稼働資産」です。これを株式投資によって「稼働資産」に変えることで、複利の効果を活かした長期的な資産形成が可能になります。
さらに、低金利の運転資金を借り入れて、その資金で利回りの高い資産に投資するという、一歩進んだ「レバレッジ経営」も視野に入ります。これは、財務体質に自信のある企業だからこそ可能な、まさに攻めの財務戦略です。
2. 【鉄壁の守り】本業を守るセーフティネット
投資にリスクはつきものですが、法人の場合は個人にはない強力なリスク管理ツールが用意されています。
- 損益通算:本業の利益と相殺できる
万が一、株式投資で損失が出た場合、その損失を本業の利益と合算(相殺)できます。
【例】本業の利益が1,000万円、株式投資の損失が300万円の場合
→ 課税対象となる所得は 700万円に圧縮
これにより、法人税の負担を軽減でき、本業のキャッシュフローを守ることができます。 - 繰越控除:損失を10年間繰り越せる
さらに、その年の利益で相殺しきれなかった損失は、翌期以降10年間にわたって繰り越すことができます。個人の3年間と比べて非常に長く、長期的な視点でじっくりと投資に取り組むことを可能にします。
3. 【未来への投資】第二の事業を育てる
前述の通り、資産運用を「第二の事業」と位置づけることで、企業経営は格段に安定します。特に、S&P500などの米国株インデックスに投資することは、実質的にドルで資産を持つことと同じです。これにより、将来の円安リスクに対するヘッジとなり、海外からの原材料仕入れなどがある事業では、為替変動のリスクを緩和する効果も期待できます。
デメリットと「賢い」乗り越え方
もちろん、法人での株式投資にはデメリットや注意点も存在します。しかし、それらを正しく理解し、対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。
デメリット | 内容と賢い乗り越え方 |
---|---|
税率が個人より高い場合がある | 個人の一律約20%に対し、法人は所得に応じて約22%〜34%の実行税率がかかります。しかし、これはあくまで利益が出た場合の話。損益通算や経費計上といった法人ならではのメリットを総合的に考えれば、実質的な有利性は法人の方が高いケースが多々あります。 |
特定口座が使えず、手間がかかる | 法人には、個人のような源泉徴収ありの「特定口座」がありません。そのため、全ての取引を記録し、決算で報告する必要があります。しかし、「インデックスファンドの積立投資」のように売買頻度の低いシンプルな投資から始めれば、経理上の負担は最小限に抑えられます。 |
含み益に課税される可能性がある | 短期売買を目的とする「売買目的有価証券」は、期末時点の時価で評価され、売却していなくても含み益が課税対象となります。これは注意点ですが、逆に言えば「投資が順調である証」でもあります。本業の利益状況を見ながら、計画的に利益確定を行うことで、納税額をコントロールすることも可能です。 |
【図解】個人投資と法人投資の決定的な違い
多くの経営者は、すでに個人で投資を経験されているかもしれません。法人での投資がどう違うのか、一目でわかるように比較表にまとめました。
比較項目 | 法人口座 | 個人口座 |
---|---|---|
税率 | 所得に応じて変動(約22%~34%) | 一律 20.315% |
損益通算 | 本業の利益と相殺可能 | 他の所得との相殺は原則不可 |
損失の繰越 | 最大10年間 | 最大3年間 |
経費計上 | セミナー代、書籍代、新聞代など幅広く可能 | 原則として不可 |
確定申告 | 必須(法人の決算に含める) | 特定口座(源泉徴収あり)なら原則不要 |
意外と簡単!法人での株式投資を始める3ステップ
「専門家でないと無理だろう」と考える必要は全くありません。特に、最初のステップは驚くほどシンプルです。
ステップ1:法人名義の証券口座を開設する
まずは、主要なネット証券会社で法人口座の開設を申し込みます。例えば、SBI証券や楽天証券などでは、履歴事項全部証明書や法人番号指定通知書などの書類を準備すれば、オンラインで手続きが完結する場合がほとんどです。
ステップ2:法人口座から投資資金を入金する
次に、会社の銀行口座から開設した証券口座へ資金を振り込みます。まずは、当面の事業運営に影響のない範囲の余剰資金から始めるのが鉄則です。
ステップ3:インデックスファンドの積立から始める
個別企業の株を選ぶのは、多くの情報と分析が必要になります。そこで、最初の投資対象として強く推奨するのが「インデックスファンド」です。
日経平均株価や米国のS&P500といった株価指数に連動するため、1つの商品を買うだけで数百〜数千の企業に分散投資するのと同じ効果が得られます。これにより、特定の企業が倒産するリスクを避けながら、市場全体の成長の恩恵を受けることができます。まずは、少額から毎月一定額を積み立てる設定をしてみましょう。
まとめ:守りから攻めの財務へ。最初の一歩を踏み出そう
法人での株式投資は、もはや一部の企業だけが行う特別なものではありません。会社の資産をインフレや円安から守り、本業を支える第二の収益源を育て、強力な節税効果も享受できる、極めて合理的な経営戦略です。
デメリットや会計処理の手間を過度に恐れる必要はありません。シンプルなインデックス投資から始めることで、そのハードルは格段に下がります。
この記事を読み終えた今が、行動を起こす絶好の機会です。まずは顧問税理士に相談し、貴社の未来のために「攻めの財務」への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
参考情報:公式サイトでさらに詳しく
本記事で解説した内容について、より詳細な一次情報を確認したい場合は、以下の公式サイトが役立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法人での株式投資は、いくらから始めれば良いですか?
A1. まずは、万が一価値が半分になっても事業に全く影響のない「余剰資金」の範囲内で始めることをお勧めします。ネット証券であれば月々数万円からの積立投資も可能です。大切なのは、金額の大小よりも「まず始めてみること」です。
Q2. 専門の運用担当者を雇う必要がありますか?
A2. いいえ、その必要はありません。特に、市場全体に連動するインデックスファンドへの長期・積立投資であれば、一度設定すれば日々の値動きを気にする必要はほとんどありません。経営者自身や経理担当者が兼務で十分に管理できます。
Q3. 銀行から融資を受けていても、投資をして問題ありませんか?
A3. 財務状況が健全で、キャッシュフローが安定していれば問題ないケースが多いです。ただし、融資元の金融機関との契約内容によっては、資金使途に制限がある場合も考えられます。事前に確認するか、自己資本の範囲内で行うのが無難です。

この記事の監修者
寺田税理士・社会保険労務士事務所
(社労士法人フォーグッド)
大阪府堺市・高石市を拠点に、税務・労務・財務コンサルティングまで、企業の成長をワンストップで支援します。
法人での資産運用や財務戦略に関するご相談も承っております。