試用期間中の解雇は可能か?判例から見る正当な理由と認められたケース

2024.09.23

はじめに

試用期間で採用した人材が期待に沿わない場合、解雇は可能か?

 試用期間は、企業が新たに採用した人材の適性や能力を見極める重要な時間です。もし期待していた能力や成果が得られない場合、企業にとって大きな経営リスクとなり、日常業務に深刻な影響を与えることもあります。しかし、試用期間中の解雇が適切に行われなければ、不当解雇として企業の信頼や法的リスクを問われる可能性もあります。本記事では、試用期間中の解雇がどのように認められ、また不当と判断されるのか、実際の判例を交えて詳しく解説します。企業が安心して適切な判断を行うために、必要な手続きや注意点を学びましょう。

1. 試用期間中の解雇の可能性

試用期間中の労働者の解雇は、「解約権留保付労働契約」として認められており、企業側が雇用契約を解除できる権利を保有しています。しかし、判例では「使用者との間に労働契約が成立している点では、本採用後の労働者と変わりがない」とされており、無条件での解雇は認められず、厳格な解雇理由の合理性と手続きの適正さが求められます。労働基準法では、試用期間14日以内であれば、解雇予告なしで即時解雇が可能ですが、14日を超える場合は通常の解雇手続きと同じ手続きが必要です。

2. 解雇が認められる具体的な理由

以下のような条件に該当する場合、試用期間中の解雇が正当と認められる可能性がありますが、合理的な理由と手続きを満たす必要があります。

著しい能力不足が認められる

試用期間中に求められるスキルや能力が著しく欠如している場合、解雇が正当とされることがあります。ただし、単に期待に達していないだけではなく、具体的な業務遂行能力の欠如が認められ、改善の見込みが乏しいと判断される必要があります。例えば、外国語が必須のポジションで語学力が基準に達していない場合や、指導を受けても業務が遂行できない場合などが該当します。

著しく勤務態度の不良が見られる

無断欠勤や頻繁な遅刻、業務指示に従わない、職場での態度が著しく悪いといった行動が繰り返され、注意や指導を繰り返しても改善されない場合、解雇が正当と認められる可能性があります。これには、企業の業務運営に著しい支障を与える場合が含まれます。

重大な経歴詐称が確認される

採用時に提出された履歴書や職務経歴書に重大な虚偽の記載がある場合、特に業務に必要な資格や経験を偽った場合、解雇の正当な理由となる可能性があります。ただし、虚偽の内容が業務に直接的な支障を与えるものであることが求められます。

就業が困難な病気やケガがある

試用期間中に発生した病気やケガが長期間の休職を必要とし、復職の見込みが立たない場合、解雇が正当とされることがあります。ただし、労災であったり一時的な療養で復職の見通しがある場合には、解雇が制限されることがあるため、慎重な対応が必要です。

3. 解雇が認められにくいケースと不当解雇のリスク

試用期間中の解雇が不当と判断されるケースも存在します。以下のような場合は、不当解雇とされるリスクが高いため、注意が必要です。

指導を行わずに解雇する

試用期間は労働者にとっても業務を習得する期間です。改善のための指導や教育を行わずに、能力不足を理由に解雇することは、不当と判断される可能性があります。

新卒採用者や未経験者を解雇する

新卒採用者や未経験職種の中途採用者に対して、短期間での成果のみを理由に解雇することは、社会通念上問題視されることが多いです。適切な指導と改善の機会が提供されているかが重要です。

結果だけを理由に解雇する

仕事の結果のみを理由とした解雇は、不当とされやすいです。結果だけではなく、業務遂行のプロセスや努力の状況を評価することが求められます。

4. 試用期間中の解雇手続き

試用期間中に解雇を行う際には、適切な手続きと記録が不可欠です。以下のポイントを守ることで、解雇の正当性を証明し、不当解雇とされるリスクを減らすことができます。

解雇予告の義務を遵守する

労働基準法では、試用期間が14日を超えた場合、解雇予告が義務付けられています。解雇の30日前に予告するか、もしくは30日分の平均賃金を支払う「解雇予告手当」が必要です。この義務を守らないと、解雇は無効とされる可能性があります。

解雇通知書の交付をする

解雇を正式に告知する際には、解雇通知書を労働者に交付することが求められます。通知書には、解雇理由、解雇日、担当者名などを明記し、適切に交付することでトラブルを未然に防ぐことができます。無料の解雇通知書テンプレートも活用し、手続きを確実に行いましょう。
参考:日本の人事部「解雇予告通知書テンプレート

改善指導と記録を徹底する

解雇に至る前に、労働者に対して改善の指導を行い、その過程をしっかりと記録することが重要です。具体的には、指導の内容や回数、労働者の反応を詳細に記録し、必要に応じて本人から始末書を提出させることで、改善の努力が行われた証拠となります。これらの記録は、後に解雇の正当性を証明するために不可欠な資料となります。

一方的な解雇にならないよう正しい対応や手続きを実施する

試用期間中の解雇であっても、労働者の理解を得る努力が求められます。解雇の正当性を証明するために、評価の記録や指導の履歴を詳細に残し、適切な手続きを踏むことが重要です。労働者が改善の機会を与えられたか、適切な指導が行われたかを示すことで、解雇が一方的でないことを証明できます。

5. 判例から見る解雇の実際:具体的なケース紹介

ケース1:新卒採用者の能力不足による解雇

企業が新卒採用者を試用期間中に解雇したケースです。入社当初から研修での危険行為や、勤務態度に問題が見られ、繰り返しの指導にもかかわらず改善が見られませんでした。裁判所は、技術社員として必要な能力を身につける見込みが立たないと判断し、解雇を有効と認めました。
▶労働新聞社:日本基礎技術事件(大阪高判平24.2.10)

ケース2:勤務成績不良による従業員の解雇

企業が勤務成績不良を理由に従業員を解雇した事例です。従業員は会社の導入したパソコンソフトを使用せず、自分の慣れたソフトを使用し続けるなど、指示に従わない行動が続きました。また、上司や同僚への侮辱的な発言や、職場内での独自の行動も問題視されました。裁判所は、これらの行為が企業の業務に支障を来すと判断し、弁明の機会を与えたことや就業規則に基づいていることから、解雇は有効と認めました。

▶社長のための労務相談マニュアル:カジマ・リノベイト事件(東京地判平14.9.30)

ケース3:労務管理業務の適性欠如による解雇

労務管理および経理業務を期待されてパート採用された社会保険労務士が、試用期間中に解雇された事例です。従業員としての資質を欠き、社員の情報共有の場である会議で突然「決算書は誤り」と発言し職場の秩序を乱すなど、事前に関係者の確認を怠り、組織的な配慮ができないと判断されたため、解雇が有効と認定されました。

▶労働新聞社:空調服事件(東京高判平28.8.3)

ケース4:経営企画担当者の勤務態度不良による解雇

中途採用された経営企画担当者が、勤務態度不良を理由に解雇された事例です。上司の指示に従わず、独断で行動するなど協調性に欠ける行動が見られ、改善の見込みが乏しいと判断されました。裁判所は、配置転換による改善の見込みがなく、解雇が適切と認めました。

▶全国労働基準関係団体連合会:ヤマダコーポレーション事件(東京地判令和元.9.18)

ケース5:中途採用者の長期試用期間による解雇の無効性

中途採用の「見習」社員から登用試験を経て「試用」社員となった労働者が、3回の「社員」登用試験に合格しなかったことを理由に解雇された事例です。裁判所は、見習社員期間中にすでに業務適性が判断されるため、試用社員としてさらに長期間試用する合理性がないとし、この解雇を無効としました。このケースでは、試用期間の長さが合理的でない場合、公序良俗に反して無効となることが示されています。

▶全国労働基準関係団体連合会:ブラザー工業事件(名古屋地判昭59.3.23)

おわりに

試用期間解雇のまとめと注意点

 試用期間中の解雇は、企業側の判断次第で行われることが多いものの、適正な手続きと合理的な理由が求められます。裁判所は試用期間中の解雇について慎重な姿勢を示しており、不合理な試用期間の延長や不適切な解雇理由があれば、解雇の有効性は認められないと言えるでしょう。各判例が示すように、解雇の正当性を証明するためには、事前の指導や改善の機会の提供が不可欠であり、これらを欠いた解雇は不当とされる可能性があります。試用期間の運用においては、企業側も労働者の権利を尊重し、慎重な対応が求められるでしょう。

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