税理士と社労士が解説!確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)の違いとメリット・デメリット
2024.08.24
はじめに
確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)どっちがいいの?
企業年金制度には、確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)という二つの主要なタイプがあります。それぞれの制度には、企業と従業員にとって異なるメリットとデメリットがあり、どちらを採用するかは企業の経営方針や従業員のニーズに大きく影響します。
本記事では、税理士と社労士の視点から、これら二つの企業年金制度の違いとそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。また、具体的なシミュレーション例と節税効果の計算を通じて、これらの制度がどのように企業と従業員に影響するのかを理解していただける内容となっています。企業として最適な年金制度を選択する際の参考にしていただければ幸いです。
1. 確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)の違い
まず、企業型DCとDBの基本的な違いについて説明します。企業型DCは、企業が拠出した掛金を従業員が自ら運用し、その結果に応じて将来の年金額が決まる制度です。一方、企業型DBは、企業が将来の年金受給額をあらかじめ確定させ、その額を受け取ることができる制度です。
基本的な違い
項目 | 企業型確定拠出年金(DC) | 企業型確定給付企業年金(DB) |
---|---|---|
掛金の拠出者 | 企業(従業員が追加で拠出することも可能) | 企業 |
運用者 | 従業員(加入者)本人 | 年金運用機関(運用成果が不足する場合は企業が補填) |
年金受給額の確定 | 不確定(運用結果による) | 確定(運用成果が不足する場合、企業が補填) |
運用商品の変更 | 可能 | 不可能 |
運用リスクの負担 | 従業員 | 企業 |
税制優遇 | 掛金・運用益・受取時に税制優遇 | 掛金・運用益・受取時に税制優遇 |
企業の財務リスク | 低い | 高い |
従業員の安心感 | 低い(運用次第) | 高い(年金額が確定) |
導入のコスト | 比較的低い | 高い |
退職の場合 | 原則60歳まで受け取れない。転職先に移行は可能 | 退職時に一時金の受取も転職先に移行も可能 |
【参考】DB・DCの仕組み(内閣府)
【参考】確定拠出年金制度とは(厚生労働省)
2. 確定給付企業年金(DB)のメリット・デメリット
メリット
従業員にとって
- 資産運用を会社が行うため安心: 従業員は資産管理に気を使う必要がなく、安心して老後資金を積み立てることができます
- 年金受取り見込額が明確: 給付額があらかじめ確定しているため、老後の生活設計が立てやすいです
- 安定的な老後収入: 年金受取りを前提とした設計のため、老後に安定した収入源が期待できます
企業にとって
- 人材獲得・従業員のロイヤリティ向上: 給付額が約束された企業年金制度を持つことで、優秀な人材の確保と従業員の忠誠心を高める効果があります
- 自己都合退職者への減額支給が可能: 自己都合退職や懲戒解雇の場合、給付を減額できるため、企業のコストを管理できます
- 税制優遇措置: 掛金拠出に対する税制優遇措置があるため、退職一時金よりも効率的に資金準備が可能です
デメリット
従業員にとって
- 給付減額の可能性: 勤続年数に関係なく、給付額が減額される可能性があります
- 受給権の不明確さ: 自分の受給権がどれだけあるかが分かりにくいです
企業にとって
- 積立不足のリスク: 資産運用の責任を企業が負うため、積立不足が生じる可能性があり、その場合、企業が不足分を補填しなければなりません
- 退職給付会計の対象: 退職給付会計の対象となり、退職給付債務として認識しなければならないため、企業の財務に影響を及ぼします
- 将来の掛金負担が不確定: 運用成果が不足した場合、企業が追加で掛金を負担しなければならないため、財務リスクが高まります
確定給付企業年金(DB)のシミュレーション例
前提条件
- 従業員数: 50人
- 年金受給額: 年間60万円(退職後20年間支給)
- 運用期間: 20年
- 企業の掛金: 1人当たり年間36万円
- 法人税率: 30%
従業員側のシミュレーション結果
- 受給額の安定性: 20年間にわたって確定した年金を受け取るため、将来の生活設計が安定します。年間60万円×20年で、総額1,200万円の年金を受け取ります
企業側のシミュレーション結果
- 法人税の削減: 企業が拠出する掛金は損金算入されるため、50人の従業員に対して1年間の掛金総額は36万円×50人=1,800万円。法人税率が30%の場合、1,800万円×30%=540万円の節税効果があります
- 積立不足リスク: 市場の変動によって運用成果が不足した場合、企業は追加の掛金を拠出する必要があり、予期せぬ財務リスクが生じる可能性があります
3. 確定拠出年金(企業型DC)のメリット・デメリット
メリット
従業員にとって
- 資産残高の確認が容易: 自分の年金資産の残高をいつでも確認でき、運用状況が把握しやすいです
- 受給権の確立: 勤続3年以上であれば、自己都合退職や懲戒解雇でも受給権が確立され、減額されません
- 個別の資産管理: 自分の資産だけを管理・運用すればよいため、他の従業員の運用リスクを負う必要がありません
企業にとって
- 積立不足の心配がない: 企業型DCでは積立不足が生じないため、将来の掛金負担が安定しています
- 退職給付会計の対象外: 退職給付会計の対象外となり、退職給付債務が発生しません
- 他社からの資産移管が可能: 他社の企業型DCからの資産移管が可能であり、有力な人材を確保できます
- 退職給付の「見える化」: 従業員が退職給付の状況を把握できるため、透明性が向上します
デメリット
従業員にとって
- 自己責任の資産運用: 資産運用を自分で行わなければならず、運用リスクも自己責任となります
- 受取額の不確定性: 市場の変動により、将来受け取る年金額が確定せず、予測が難しくなります。将来の生活設計が不安定になる可能性があります
- 60歳まで引き出し不可: 原則として60歳まで積立金を引き出せないため、急な資金需要に対応できません。中途退職時の生活費や独立資金としては利用できない点がデメリットです
企業にとって
- 制度運営のコスト: 制度の運営は企業が担うため、DB同様に事務コストが発生します。特に中小企業にとっては運営の負担が重くなることがあります
- 投資教育の責務: 従業員が自ら運用するため、企業は継続的に投資教育を提供する責務を負います。従業員が適切な運用を行うためには、教育とサポートが不可欠です
- 減額支給が不可: 勤続3年以上の自己都合退職者や懲戒解雇者に対しても、給付を減額することができません
確定拠出年金(企業型DC)のシミュレーション例
前提条件
- 従業員数: 50人
- 月額給与: 30万円
- 企業の掛金: 月額1人当たり3万円(年間36万円)
- 運用期間: 20年
- 年平均利回り: 3%
- 法人税率: 30%
- 社会保険料率: 約15%
従業員側のシミュレーション結果
- 運用結果に基づく年金額: 20年間の運用期間中に掛金を運用した結果、年平均利回り3%で運用できた場合、退職時の運用残高は約837万円になります。これを年金として受け取る場合、毎年の年金額は受給方法によって異なりますが、安定した収入が見込める場合もあります
- 所得税・住民税の節税効果: 月額3万円の掛金を拠出する場合、年間36万円が所得控除の対象となります。所得税率10%、住民税率10%と仮定すると、年間の節税額は36,000円(所得税)+36,000円(住民税)=72,000円です
企業側のシミュレーション結果
- 法人税の削減: 企業が従業員1人当たり年間36万円の掛金を拠出し、50人の従業員がいる場合、総額で1,800万円の損金算入が可能です。法人税率が30%であるとすると、1,800万円×30%=540万円の節税効果があります
- 社会保険料の削減: 企業が拠出する掛金は給与に含まれないため、社会保険料の算定対象外となり、社会保険料の負担が軽減されます。年間36万円の掛金に対して、社会保険料率15%の場合、1人当たり54,000円の削減が見込めます。50人の従業員がいる場合、54,000円×50人=270万円の社会保険料削減が期待できます
4. 確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)の節税シミュレーションの比較
確定拠出年金(DC)と確定給付企業年金(DB)のどちらの制度を採用するかにより、企業と従業員が享受できる節税効果も異なります。
節税効果 | 企業型確定拠出年金(DC) | 企業型確定給付企業年金(DB) |
---|---|---|
企業側の法人税削減 | 掛金が全額損金算入され、法人税の削減効果が得られる | 同様に掛金が全額損金算入され、法人税の削減効果が得られる |
企業側の社会保険料削減 | 掛金が給与に含まれないため、社会保険料が削減される | 掛金が給与に含まれないため、社会保険料が削減される |
従業員側の所得税削減 | 掛金が全額所得控除され、所得税と住民税が軽減される | 受給時に退職所得控除や公的年金等控除が適用される |
企業の財務リスク | 低い(掛金が確定し、積立不足のリスクがない) | 高い(運用結果次第で追加掛金が必要になる可能性がある) |
おわりに
企業型確定拠出年金(DC)と企業型確定給付企業年金(DB)は、それぞれ異なる特徴を持ち、企業と従業員にとってのメリットとデメリットも異なります。確定拠出年金(DC)は企業の財務リスクを低く抑えることができ、従業員も運用の自由度が高い一方で、運用リスクも従業員が負うことになります。逆に確定給付企業年金(DB)は、従業員に安定した年金を保証する一方で、企業が運用リスクを負い、財務リスクが高まる可能性があります。
この記事で紹介したシミュレーションや節税効果の比較を参考に、企業の財務状況、従業員のニーズ、そして企業が提供したい福利厚生のバランスを考慮しながら、最適な年金制度を選択することが重要です。税理士や社労士のアドバイスを活用し、長期的な視点で企業年金制度を構築することで、企業と従業員双方にとってメリットのある制度運営を目指しましょう。