社員はバカではない。社員をダメにするのは誰か?ドラッカーの教えと共に考える

2024.06.13

従業員をバカにするのは誰か?

 私は税理士として20年、そして社会保険労務士としても15年が経ち、これまで450社以上のさまざまな企業を見てきました。成長しない、離職率が高いといった特徴をもつ会社には共通点があります。

 この記事では、社長が「従業員をバカ」にするとどうなるのか、そしてその対策について私の経験した実例を紹介しながら考えてみたいと思います。

「うちの従業員はバカそうな人が多いでしょ」

 私が社会人として初めて会計事務所に勤めた時、ある製造業の会社の工場にお伺いしました。社長は自社の製造現場を私に見せてくれましたが、帰りの車で「うちの従業員はバカそうな人が多いでしょ」と言ってこられました。私は、その言葉に衝撃を受けたことを覚えています。

 私は、その後も税理士としてその会社の財務を担当しましたが、従業員の定着率は低く、入社と退社を繰り返す状態が続きました。ちなみに私はその際に社会保険の手続きの相談をよく受け、社会保険労務士も目指すようになったのです。

ドラッカーの教え

マネジメントの権威であるピーター・ドラッカーは

「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない。」

と述べています。つまり、マネジメントの役割は社員の強みを引き出し、会社全体の成果に繋げることです。またドラッカーは

「人は弱く無責任で怠惰であるとする者は、弱く無責任で怠惰な部下を得、人を駄目にする」

とも言っています。従業員に対するネガティブな視点は、実際にそのような行動を引き出してしまうのです。

ピーター・ドラッカー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)。2024年6月13日17時(日本時間)

人をダメにする上司の特徴

1. 従業員を見下す発言

 社長の「バカそうな従業員」という発言は、従業員の自己評価を下げ、やる気を失わせます。否定的な言葉ばかり投げかけられると、従業員は次第にモチベーションを失い、会社への忠誠心や仕事に対する意欲も低下します。結果的に、優秀な人材も定着せず、組織全体のパフォーマンスが低下する恐れがあります。

2. 一方的な指示命令

 私自身も税理士として、社長から無理難題に近い書類を作成するように求められ、「申し訳ないのですが作れません」と伝えた時に「できるようにせよ」と言われ続け、怒った社長は私の話を聞いてもらえないこともありました。もし従業員にも同じように接しているのであれば、これにより、従業員は自ら考え、行動する意欲を失います。

3. 感謝の言葉を欠く

 「ありがとう」という一言がないことで、従業員は自分の努力が認められていないと感じ、モチベーションを失います。実際に、その会社を退職する人と話す機会があったときに「あの社長はありがとうという言葉をほとんど使わない。当たり前だと思っている」というの声を聞いたこともありました。

4. プライドが高い

 社長のプライドの高さゆえに、従業員は安心して意見を言うことができず、成長の機会を失います。例えば、あるプロジェクトで従業員が新しいアイデアを提案しても、社長が「自分のやり方が一番だ」として受け入れないことで、従業員は次第に意欲を失い、改善や革新の機会が減少します。もしかすると、従業員が「バカに見える」のは社長のプライドが高すぎたからかもしれません。

社長の性善説・性悪説

 その社長は従業員に対して性悪説で接していたのかもしれません。従業員を信頼せず、常に疑いの目で見ていた結果、従業員も自己を肯定できず、主体性を失っていったのでしょう。

ドラッカーは

「信頼とは、自らに期待されるものを知り、それに応えることである」

とも言っています。従業員を信頼し、期待をかけることが、従業員のやる気と成果を引き出すカギだと思います。

まとめ

 その社長の周りに「バカな従業員」が多かったのは、実際に従業員が能力不足だったからではなく、社長自身が従業員の強みを引き出せなかったからではないでしょうか。性悪説に基づくマネジメントは、従業員の成長と成果を阻害します。

 中小企業経営者の皆様には、ドラッカーの教えを胸に、従業員を信じ、強みを引き出すマネジメントを心掛けてほしいと思います。従業員はバカではありません。それは社長自身がその現象を創り出しているのです。従業員の可能性を引き出すのは、リーダーである社長の役割です。この記事が中小企業の経営者にとって、従業員の成長と企業の発展に役立つ一助となれば幸いです。

寺田 慎也
税理士特定社会保険労務士理念浸透診断士経営財務コンサルタント JPSAプロスピーカー

税理士登録から20年、社会保険労務士登録から15年。税理士と社会保険労務士のダブルライセンスを活かし、多角的な経営指導、組織活性化、人材育成を得意としています。

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