社労士が教える!労働保険申告書と算定基礎届の賃金・報酬の範囲、どこが違う?

2024.04.07

はじめに

「賃金」と「報酬」の謎を解明!労働保険申告と算定基礎届のカンタンガイド

 労働保険申告書算定基礎届、聞いたことはあっても、これらが具体的に何を意味するのか、そしてどう違うのか、わかりにくいですよね。企業経営には欠かせないこれらの手続き、特にそれぞれ対象となる「賃金」と「報酬」の違いについてピンとこない方も多いのではないでしょうか。この記事では、労働保険申告書と算定基礎届のそれぞれがどのような考え方で、何を集計対象としているのかを理解できるようにやさしく解説します。スムーズに労働保険申告書と算定基礎届の作成ができるように進めていきますので、ぜひお付き合いください。

用語の違い:労働保険申告書では「賃金」、算定基礎届では「報酬」

 まず労働保険申告書では「賃金」と表記されるものが、算定基礎届では「報酬」と表現されそれぞれ区別されています。

文書 用語
労働保険申告書 賃金     
算定基礎届 報酬     

労働保険申告書における賃金の範囲

労働保険申告書での「賃金」の全て:何が含まれ、何が含まれないか

 労働保険申告書で申告する「賃金」は、事業主が労働者に対して支払うすべての金額を指します。これには基本の給料のほか、手当や賞与など、さまざまな形で支払われる金銭が含まれます。

労働保険申告書における「賃金」の範囲とは?

 労働保険における賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者(年度途中の退職者を含みます。)に対して賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず、労働の対策として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。

賃金とするもの 賃金としないもの
基本賃金 時間給・日給・月給、臨時・日屈労働者・バート・アルバイトに支払う賃金 役員報酬 取締役等に対して支払う報酬
賞与 夏季・年末などに支払うボーナス 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・年功慰労金・勤続褒賞金・退職金 就業規則・労働協約等の定めがあるとないとを問わない
通動手当 課税分、非課税分を問わない 出張旅費・宿泊費 実費弁償と考えられるもの
定期券・回数券 通勤のために支給する現物給与 工具手当・寝具手当 労働者が自己の負担で用意した用具に対して手当を支払う場合
超過勤務手当・深夜手当等 通常の勤務時間以外の労働に対して支払う残業千当等 休業補償費 労働基準法第76条の規定に基づくもの法定額60%を上回った差額分を含めて
扶養手当・子供手当・家族手当 労働者本人以外の者について支払う手当 傷病手当金 健康保険法第99条の規定に基づくもの
技能手当・特殊作業手当・教育手当 労働者個々の能力、資格等に対して支払う手当や、特殊な作業に就いた場合に支払う手当 解雇予告手当 労働基準法第20条に基づいて労働者を解雇する際、解雇日の30日以前に予告をしないで解雇する場合に支払う手当
調整手当 配置転換・初任給等の調整手当 財産形成貯蓄等のため事業主が負担する奨励金等 勤労者財産形成促進法に基づく勤労者の財産形成貯蓄を接助するために事業主が一定の率又は額の奨励金を支払う場合(持励金など)
地城手当 寒冷地手当・地方手当・単身赴任手当等 会社が全額負担する生命保険の掛け金 従業員を被保険者として保険会社と生命保険等厚生保険の契約をし、事楽主が保険料を全額負担するもの
住宅手当 家計補助の目的で支払う手当 持家奨励金 労働者が特家取得のため融資を受けている場合で事業主が一定の辛又は額の利子補給金等を支払う場合
獎励手当 精勤手当・皆勤手当等 住宅の貸与を受ける利益(福利厚生施設として認められるもの) 住宅貸与されない者全員に対し(住宅)均衡手当を支給している場合は、貸金となる場合がある
物価手当・生活補粉金 家賃補助のために支払う手当
休業手当 労働基準法第26条に基づき、事業主の責に帰すべき事由により支払う手当
宿直・日直手当 宿直・日直等の手当
雇用保険料・社会保険料等 労働者の負担分を事楽主が負担する場合
昇給差額 離職後支払われた場合で在職中に支払いが確定したものを含む
前払い退職金 支給基準・支給額が明確な場合は原則として含む
その他 不況対策による賃金からの控除分が労使協定に基づき遡って支払われる場合の給与

参考:労働保険対象賃金の範囲
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhoken01/dl/1-3-2.pdf

参考:厚生労働省 労働保険の適用・徴収
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/index.html

算定基礎届における報酬の範囲

算定基礎届で理解する「報酬」の範囲:金銭も現物も?何が含まれる?

 算定基礎届の「報酬」は、金銭の支払いだけでなく通勤定期券や住宅提供などの現物支給も含みます。ここからは報酬の具体的な内容と対象外となるものを明確にし、労働保険申告書の「賃金」との違いを解説します。算定基礎届の正確な作成と届出に役立つようにわかりやすく解説しますので、一度確認ください。

算定基礎届における「報酬」の範囲とは?

 報酬とは 標準報酬月額の対象となる報酬として、賃金、給料、俸給、手当、賞与などの名称を問わず、 労働者が労働の対償として受けるすべてのものを含みます。また、金銭(通貨)に限らず、 通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも報酬に含まれます。ただし、臨時に受けるものや、年3回以下支給の賞与(※)等は、報酬に含みません

報酬となるもの 報酬とならないもの
金銭(通貨)で支給されるもの 基本給(月給・週給・日給等)、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、扶養手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金、年 4 回以上の賞与 大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年 3 回以下の賞与
現物で支給されるもの 通勤定期券、回数券、食事、食券、社宅、寮、被服(勤務服でないもの)、自社製品 制服、作業着(業務に要するもの)、見舞品、食事(本人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の 2/3 以上の場合)

(※)年3回以下支給される賞与は標準賞与額(=報酬ではありません)の対象になります。

(2) 現物給与の取り扱い

①通勤定期券等

 通勤手当を、金銭ではなく定期券や回数券で支給している場合は、現物給与として取り扱われますので、その全額を報酬として算入します。3 カ月または 6 カ月単位でまとめて支給する通勤定期券は、1 カ月あたりの額を算出して報酬とします。

②食事で支払われる報酬等

 事業主が被保険者に食事を支給している場合は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬を算出します。
その一部を被保険者本人が負担している場合は、上記価額から本人負担分を差し引いた額を報酬として算入します。ただし、被保険者が当該価額の 2/3 以上を負担する場合は報酬に算入しません。

③住宅で支払われる報酬等

 事業主が被保険者に社宅や寮を提供している場合は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬を算出します。その一部を被保険者本人が負担している場合は、厚生労働大臣が定める価額から本人負担分を差し引いた額を算入します。
価額を算出する場合は、居間、茶の間、寝室、客間等、居住用の室を対象とします。玄関、台所、トイレ、浴室、営業用の室(店、事務室等)等は含めません。

④食事および住宅以外の報酬等

 食事および住宅以外の報酬等の価額について、労働協約に定めがある場合は、その価額を「時価」として取り扱いますが、労働協約に定めがない場合には実際費用を「時価」として取り扱います。

参考:日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html

労働保険申告書と算定基礎届の賃金・報酬の範囲

終わりに

労働保険申告書と算定基礎届の作成をスムーズに進めるために

 このガイドが、労働保険申告書算定基礎届の作成に役立ち、賃金報酬の違いをしっかり理解して正しく申告できるようになることを願っています。複雑な手続きも、基本を押さえておけばスムーズに進められます。正確な労務管理を行ってください。