理念なきサンタクロースの悲劇!経営理念が企業に与える本当の力とは?

2024.06.15

サンタクロースが教える、成功する企業の共通点

税理士・社労士としての経験から

 私は税理士として21年、そして社会保険労務士としても16年が経ち、これまで450社以上のさまざまな企業を見てきました。成功している会社や成長が停滞している会社、課題を抱える会社には共通点があります。それは、経営理念の有無やその浸透度合いが大きく影響していることです。

 今回は、サンタクロースの例を用いて「経営理念」の重要性について考えてみたいと思います。

「うちの業種は他でドロップアウトした者が来るから、やる気のある人がいない」

 私は税理士の資格を取得した後、さらに社会保険労務士の資格を取り、会社のお金だけでなく、そこで働く人や組織にも興味を持つようになりました。その過程で気づいたのは、決算書には現れない「社員のモチベーションややりがい」が企業の成長にどれだけ重要かということです。

 以前、ある賃貸住宅管理業の会社を訪れたときのことです。社長は「寺田さん、うちの業種は他の業界でドロップアウトした者が最後にやってくる業種なんだよね、だからやる気あるやつなんていないんだよ」と言われました。
 この言葉に驚きましたが、実際にその会社の従業員の定着率は低く、働く従業員のモチベーションも低いことは、訪問するたびに感じていました。従業員は次々に入社し、またすぐに退社するという悪循環が続いていました。
 一方で、私が関与していた他の同業の会社では、従業員のモチベーションも定着率も高く、その違いを調べたところ、「経営理念」の存在が大きな要因であることに気づきました。

 この経験から、経営理念の重要性を考えるようになりました。経営理念が社員のモチベーションややりがいに直接影響を与え、企業の成長や成功に大きく関わることを実感しました。

 次に、サンタクロースの例を通じて、経営理念が企業に与える影響を具体的に見ていきましょう。

サンタクロースの例で見る経営理念

理念のあるサンタクロース

 「世界の人々に夢を与える!」という理念をもつサンタクロースは、いつも「子供の笑顔を想像するとワクワクする!」「やりがいがあって楽しい!」という強い思いを持っています。その結果、世界の子供たちにプレゼントを配ること自体が大きな喜びとなり、寒い夜であっても使命感に満ちた行動ができます。彼は「私のライバルなんでいるわけないよ!」と自信を持って答えます。理念が彼の心に火をつけ、彼の仕事に「仕事の価値」と「エネルギー」を与えているのです。

理念のないサンタクロース

 一方で、理念を持たないサンタクロースは、単に「ただの夜の宅配サービスだ・・・」「なぜ寒い夜に屋根に上がらないといけないんだ・・・」「この仕事は割に合わない・・・」と考えストレスと感じてしまいます。このサンタクロースは、仕事に対するやりがいや意義を見出せず、ついには「でかいプレゼントを頼むのは厚かましい子だ・・・」とまで考えるようになってしまいます。「私のライバルはAmazonだよ・・・」と嘆く彼の言葉からは、ライバルの存在に圧倒され、自分の仕事の価値を感じられない様子が伺えます。このままでは本当にサンタクロースという存在はAmazonの配達員に取って代わられるでしょう。

経営理念の重要性

若い世代の価値観の変化

 最近、経営理念がますます重要になっています。その理由の一つが、若い世代が「仕事のやりがい」や「社会的意義」をとても重視する傾向にあるからです。あるアンケート調査では、多くの若者が経済的な報酬だけでなく、精神的な報酬を求めていることが明らかになっています。
 ミレニアル世代のモチベーション要因に関するある調査結果は以下の通りです。

  • 1位 意義ある仕事
  • 2位 学習と成長
  • 3位 家族や仲間
  • ・・・
  • 21位 昇進・昇格
  • 22位 自己決定権
  • 23位 金銭的報酬

 このように、今の若者は仕事に対して「やりがい」や「意味」を強く求める傾向があります。ある調査によれば、20代の約70%が「仕事のやりがい」を最も重視する要素として挙げています。これは、お金を稼ぐためだけではなく、自分の仕事が社会にどのように貢献しているのかを意識するようになっていることを示しています。

経済的報酬から精神的報酬へのシフト

 昔は、労働者は主に経済的報酬(給与やボーナス)を重視していましたが、最近では精神的報酬(やりがいや達成感)に対する関心が高まっています。これは、経済的な安定を得ることが比較的容易になった一方で、仕事が社会に与える影響や個人の成長を重視する人が増えているためです。

企業における経営理念の役割

 企業は経営理念を明確にし、それを従業員に浸透させることが重要です。理念に共感した従業員は、自分の仕事の意義を理解し、やりがいを感じることができます。これにより、従業員のモチベーションが向上し、生産性の向上や離職率の低下といったポジティブな効果が期待できます。
 例えば、ある飲食業の会社では「食の提供を通じてお客様の幸福向上に貢献する」を経営理念として掲げています。この理念に共感した従業員は、自分の仕事が社会にどのような価値を提供しているかを意識しながら働いており、高いモチベーションを維持しています。このような企業文化が形成されることで、企業全体のパフォーマンスが向上し、長期的な成功へとつながるのです。

賃貸住宅管理業が経営理念を持てば

 もし賃貸住宅管理業の会社がしっかりとした経営理念を持ち、それを全従業員に浸透させることができれば、状況は大きく改善するでしょう。例えば、「お客様に安心と快適な住まいを提供し幸せを育む」といった理念を掲げ、それを全員が共有することで、従業員一人ひとりが自分の仕事の意義を理解し、やりがいを感じるようになります。

 こうした理念が浸透すれば、従業員のモチベーションが向上し、定着率も上がるでしょう。また、お客様に対しても一貫した高品質なサービスを提供することで、顧客満足度も向上し、会社全体の評価が上がります。

 さらに、従業員が自分の仕事に誇りを持ち、企業全体が一丸となって目標に向かって進むことで、競争力が高まり、持続的な成長が期待できます。

まとめ

 経営理念は、単なる企業の指針ではなく、従業員のモチベーションややりがいを引き出す重要な要素です。特に現代の若者にとっては、経済的報酬だけでなく、精神的報酬も重視されるため、経営理念の浸透は企業の持続的な成長に不可欠です。理念に共感した従業員が増えることで、企業全体の一体感が高まり、より良い結果を生み出すことができるでしょう。

 経営理念の有無が、サンタクロースのように仕事の意義を感じられるかどうか、さらには企業の成功にどれほど大きな影響を与えるのかを理解することで、今後の経営に役立てていただければ幸いです。

寺田 慎也
税理士特定社会保険労務士理念浸透診断士経営財務コンサルタント JPSAプロスピーカー

税理士登録から21年、社会保険労務士登録から16年。税理士と社会保険労務士のダブルライセンスを活かし、多角的な経営指導、組織活性化、人材育成を得意としています。

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