永年勤続表彰金は税金の落とし穴:社会保険・労働保険・所得税の正しい取り扱いとは?
2023.08.18
長年にわたって頑張る従業員への感謝の意を込めて、永年勤続表彰金が支給されることがあります。しかしこの制度は、社会保険や労働保険、所得税など多くの観点で複雑な取り扱いが必要です。この記事では、永年勤続表彰金のしくみをわかりやすく解説し、社会保険や労働保険、所得税との関係性を紐解いていきます。さらに、最新の法改正や規則に触れながら、従業員への報奨金としての永年勤続表彰金をスマートに活用するコツもご紹介します。
1. 社会保険の取り扱い
社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのものを「報酬等」として扱います。
そして永年勤続表彰金に関する社会保険の取り扱いは、2023年6月27日に改正された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に基づいて、以下の要件を満たす場合、原則として報酬等に該当せず、社会保険の対象外とされることが示されています。
【参考:標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集】
⑴ 表彰の目的
企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
⑵ 表彰の基準
勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
⑶ 支給の形態
社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。
⑷ 総合的に判断すること
ただし、以上の要件を満たさない場合でも直ちに報酬として判断せず、その性質について詳細に確認し、総合的に判断するとされています。
2. 労働保険の取り扱い
労働保険では、賃金、手当、賞与、その他名称を問わず、労働の対償として会社が従業員に支払うすべてのものを賃金として扱います。
労働保険の観点からは、永年勤続表彰金は「勤続褒賞金」と同義とされ、労働協約や就業規則に関わらずに、一般的には賃金とはみなされず、労働保険の対象外とされます。したがって、労働保険の申告や保険料の計算対象となる賃金からは外してよいでしょう。
【参考:労働保険対象賃金の範囲(労働保険)】
3. 所得税の取り扱い
所得税に関しては、国税庁のホームページで、以下のように示されています。
【No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき】
創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰に当たって支給する記念品などは、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。
なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。
1.創業記念などの記念品
⑴ 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること。
⑵ 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
⑶ 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること。
2.永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用
⑴ その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
⑵ 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
⑶ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。
【参考:国税庁 No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき】
このように所得税に関しては、永年勤続表彰金が創業記念や長期勤続者の表彰として支給され、上記国税庁の要件を満たす場合は、給与として所得税が課税されることはありません。ただし、現金や商品券といった記念品や旅行や観劇の招待費用以外の支給は所得税の対象として課税されるでしょう。
まとめ
以上のように、永年勤続表彰金の取り扱いは、社会保険、労働保険、所得税の各観点から異なる要件が存在し、適切な運用が求められます。福利厚生や労働条件の一環として行われるこの制度において、法令や規則を遵守し、従業員との公平な取り扱いを確保することが重要です。情報は時折変更される可能性があるため、最新の法令や規則を確認することが大切です。