最低賃金の算出方法と事例解説:会社と労働者ためのガイド
2024.09.30
はじめに
賃金が最低賃金以上かどうかの確認方法は?
最低賃金の計算方法
1. 時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
2. 日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
3. 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
4. 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
5. 上記1〜4の組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の2、 3の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。
詳しくは、最寄りの都道府県労働局労働基準部賃金課室又は労働基準監督署におたずねください。
ではここで、具体的なケースを通して、最低賃金の計算方法をわかりやすく解説していきます。各ケースでは、最後に支給される賃金が最低賃金を上回っているかどうかを確認します。計算手順を順を追って見ていきましょう。
ケース1:月給制で支給されるAさんの場合
ケース1:月給制で支給されるAさんの場合
○○県で働く労働者Aさんは、月給で、基本給が月150,000円、職務手当が月30,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。また、この他残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されます。M月は、時間外手当が35,000円支給され、合計が220,000円となりました。
なお、Aさんの会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は8時間で、○○県最低賃金は時間額1,000円です。
Aさんのこの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。
【Aさんの状況】
・基本給 150,000円
・職務手当 30,000円
・通勤手当 5,000円
・時間外手当 35,000円
合計 220,000円
・年間労働日数 250日
・労働時間/日 8時間
・○○県最低賃金 1,000円
(1)Aさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金の通勤手当、時間外手当を除きます。
220,000円 −(5,000円+35,000円)= 180,000円
(2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、
(180,000円 × 12か月)÷(250日 × 8時間)= 1,080円 > 1,000円
となり、最低賃金額以上となります。
ケース2:日給制と月給制の組み合わせで支給されるBさんの場合
ケース2:日給制と月給制の組み合わせで支給されるBさんの場合
△△県で働く労働者Bさんは、基本給が日給制で、1日あたり6,000円、各種手当が月給制で、職務手当が月25,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。M月は、20日働き、合計が150,000円となりました。なお、Bさんの会社は、1日の所定労働時間は8時間で、△△県最低賃金は時間額950円です。
Bさんのこの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。
【Bさんの状況】
基本給(日給) 6,000円
M月の労働日数 20日
職務手当 25,000円
通勤手当 5,000円
合計 150,000円
年間労働日数 250日
労働時間/日 8時間
△△県最低賃金 950円
(1)Bさんに支給された手当から、最低賃金の対象とならない賃金の通勤手当を除きます。
30,000円−5,000円=25,000円
(2)基本給(日給制)と手当(月給制)のそれぞれを時間額に換算し、合計すると、
基本給の時間換算額 6,000円÷8時間/日=750円/時間
手当の時間換算額(25,000円 × 12か月)÷(250日 × 8時間)=150円/時間
合計の時間換算額 750円+150円=900円<950円
となり、最低賃金額を下回ることになります。
ケース3:すべて歩合給(出来高払制)で支給されるCさんの場合
ケース3:すべて歩合給(出来高払制)で支給されるCさんの場合
○○県のタクシー会社で働く労働者Cさんは、あるM月の総支給額が177,450円であり、そのうち、歩合給が168,000円、時間外割増賃金が6,300円、深夜割増賃金が3,150円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。
○○県の最低賃金は時間額950円です。
Cさんのこの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。
1. 所定労働時間に関係なく、Cさんがその歩合給を得るために働いた月間総労働時間をもとに時間あたりの賃金額を算出します。
なお、歩合給とは別に時間外(30時間分)及び深夜(15時間分)の割増賃金の支払(上記図における②に相当する部分)が必要ですが、時間当たりの賃金額の算出にあたっては、これら割増賃金は算入しません。
168,000円÷200時間=840円
この金額(840円)が換算された時間額に当たります。
2. この時間額を最低賃金額と比較すると、
840円<950円
となり、最低賃金額を下回ることになります。
※なお、歩合給の中に時間外及び深夜の割増賃金を含めている事業場(図において(1)と(2)を合わせたものが歩合給となっているところ)も一部見受けられるようですが、このような賃金の支払方法は、歩合給相当部分と割増賃金相当部分の区分が不明確であり、割増賃金を計算する上での通常の賃金が明らかでないので、適切とはいえないものです。
したがって、このような賃金の支払方法を採用している事業場においては、まずは、歩合給相当部分と割増賃金相当部分を就業規則等において明らかにし、その上で、上記例に従って計算し、最低賃金額と比較して下さい。
ケース4:固定給と歩合給(出来高払制)が併給されるDさんの場合
ケース4:固定給と歩合給(出来高払制)が併給されるDさんの場合
△△県のタクシー会社で働く労働者Dさんは、あるM月の総支給額が221,813円であり、そのうち、固定給が136,000円(ただし、精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く。)、歩合給が50,000円、固定給に対する時間外割増賃金が30,000円、固定給に対する深夜割増賃金が3,000円、歩合給に対する時間外割増賃金が1,875円、歩合給に対する深夜割増賃金が938円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間で、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。
△△県の最低賃金は時間額950円です。
Dさんのこの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。
△△県のタクシー会社で働く労働者Dさんは、あるM月の総支給額が221,813円であり、そのうち、固定給が136,000円(ただし、精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く。)、歩合給が50,000円、固定給に対する時間外割増賃金が30,000円、固定給に対する深夜割増賃金が3,000円、歩合給に対する時間外割増賃金が1,875円、歩合給に対する深夜割増賃金が938円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間で、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。
△△県の最低賃金は時間額950円です。
Dさんのこの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。
Dさんの場合
1. 固定給と歩合給が併給されている場合は、それぞれ時間当たりの賃金額を算出し、これらを合算したものが時間当たりの賃金額となりますので、
固定給部分: 136,000円÷170時間=800円
歩合給部分: 50,000円÷200時間=250円
固定給と歩合給の合算額:1,050円
2. この時間額を最低賃金額と比較すると、
800円 + 250円 = 1,050円>950円
となり、最低賃金額以上となります。
一部の特定産業についての取り扱い
全ての地域ごとの最低賃金と、ほとんどの産業における最低賃金は、主に時間額で決まります。ただし、一部の特定産業の最低賃金は、日額と時間額の両方で規定されています。従前どおり、日額と時間額の両方で定められています。日額と時間額の両方が定められている特定(産業別)最低賃金については、日額は日給制の労働者に、時間額は日給制以外の時間給制・月給制などの労働者にそれぞれ適用されます。詳しくは以下のサイトでご確認ください。
特定(産業別)最低賃金全国一覧はこちら
まとめ
最低賃金の計算方法は、賃金の形態によって異なります。時間給、日給、月給、出来高払制などの場合、それぞれの賃金を時間額に換算し、最低賃金と比較します。組み合わせの場合は、各要素を時間額に換算して総合的に評価します。例を挙げて説明しましたが、最低賃金の計算方法についてもっと詳しく知りたい方は、お住まいの都道府県労働局労働基準部賃金課室または労働基準監督署にお問い合わせください。
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