固定残業代(みなし残業代)は大丈夫?有効にするための5つの要件
2024.11.11
はじめに~固定残業代の正しい運用方法を確認しましょう~
「固定残業代」(みなし残業代)制度は、毎月の給料に一定の残業代を含めることで、給与管理の効率化を図れる便利な制度です。しかし、適切に運用しなければ未払い残業代のリスクが生じるため、注意が必要です。この記事では、固定残業代を有効にするために必要な「5つの要件」を解説し、計算例や参考ツールも交えて具体的な内容を紹介します。
固定残業代を有効にするための5つの要件
《要件1》 就業規則と雇用契約書での明確な定めと従業員の同意
固定残業代制度を導入するには、就業規則と雇用契約書に内容を明確に記載し、従業員ごとに具体的な内容を示して同意を得ることが重要です。
- 就業規則への記載
就業規則に固定残業代制度が存在することを明記し、労働者代表の意見を得て労働基準監督署へ届出を行いましょう。また、従業員に対して周知し、制度の内容が理解できるように説明を行います。 - 雇用契約書での詳細な表示と同意の取得
各従業員ごとに雇用契約書に固定残業代の金額や対象時間数を具体的に記載し、契約書への署名・押印を得ます。たとえば、「固定残業代として20時間分の時間外手当○○円を支給する」といった形で、詳細を明示することが求められます。
このように、契約書で制度の内容を明示し、従業員に理解と同意を得ることで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
《要件2》 対価性の確保(対価性要件)
固定残業代が時間外労働に対する対価であることを明確にすることが重要です。
- 他の手当と混同しないこと
固定残業代は「時間外労働の対価」であることを明確にする必要があります。たとえば、「営業手当」という名称で支給する場合、その手当の中に経費の補填やインセンティブとしての性格が含まれると、時間外労働の対価として認められない可能性があります。 - 一目で固定残業代だとわかる名称にすること
明確に「固定残業手当」など、時間外労働の対価であることが一目でわかる名称を使用することが推奨されます。
この対価性を明確にすることで、制度が従業員に正しく理解され、トラブルを防ぐことができます。
《要件3》 基本給と固定残業代の明確な区分(明確区分性)
基本給と固定残業代が明確に区別されていることが必要です。
- 基本給と分けて表示すること
固定残業代を「基本給の一部」とすることは認められません。あくまで別項目として設定し、給料明細などで基本給と固定残業代が明確に分けられていることが求められます。 - 何時間分であるかも明確にすること
すること固定残業代が何時間分かも明記し、分かりやすく提示することで、従業員の理解を深めることができます。
このように、区分を徹底することで透明性が保たれ、制度が正しく運用されていることを示すことができます。
《要件4》 超過残業分の別途支払い
設定した時間数を超えた分の残業代は、必ず別途支払う義務があります。
- 毎月の労働時間を集計し、正確に残業時間を把握する
超過労働時間を把握し、適切な支払いを行うことで、未払い残業代が発生するリスクを軽減できます。 - 設定した固定残業時間を超えた分の残業代を追加支給する
たとえば、固定残業代が20時間分として設定されている場合、20時間を超えた残業には、別途追加の残業代が必要です。
この超過分の支払いを怠ると、後々未払い残業代として指摘を受ける可能性があるため、労働時間の管理を徹底しましょう。
《要件5》 残業代の正確な計算(計算事例)
支払う固定残業代が適正な金額であることを確認するため、計算方法が正しいかチェックしましょう。
ここでは、割増賃金の計算基礎から除外できる手当についても説明し、具体的な計算例を示します。
基礎賃金に含まれる手当の考え方
残業代の基礎賃金は、基本給だけではなく、それ以外に支払っている諸手当も基礎賃金に含まれます。
ただし、労働の対価というより、従業員の個人的事情により支給されるものであるものは、割増賃金の計算の基礎に含めない(除外する)ことになっています。法律上の除外賃金は次の通りです。
割増賃金の基礎に含めなくていい手当
- 家族手当(必要なし)
- 通勤手当(必要なし)
- 別居手当(必要なし)
- 子女教育手当(必要なし)
- 住宅手当(必要なし)
- 臨時に支払われた賃金(必要なし)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(必要なし)
したがって、これらの手当を除いた賃金を基に割増単価を算出します。
計算例
・基本給: 300,000円
・資格手当: 30,000円(割増賃金に含む必要あり)
・家族手当: 20,000円(割増賃金に含む必要なし)
・住宅手当: 10,000円(割増賃金に含む必要なし)
・1ヶ月の所定労働時間数: 160時間
・固定残業代に含める時間: 20時間
⑴ 割増賃金の基礎額
割増賃金の基礎に含まれるのは、基本給300,000円と資格手当30,000円の合計330,000円です。家族手当と住宅手当は除外します。
※ 家族手当と住宅手当は含まない
⑵ 割増単価の計算
(50銭未満の端数は切り捨て、それ以上を1円に切り上げ)
⑶ 固定残業代の計算
⑷ 支給総額の算出
⑸ 20時間以上の超過分がある場合の計算例
もし30時間の残業が発生した場合、20時間の固定残業代を超えた10時間分の残業代が必要です。
超過分を含めた総支給額は以下の通りとなります。
このように、除外対象の手当を適切に考慮し、正確な計算を行うことで、残業代の支給が正確に実現します。
残業代自動計算ツールの参考紹介
残業代の簡易的な確認には、「残業代自動計算ツール」が便利です。以下に参考となるツールをご紹介しますが、計算結果はあくまで目安であり、正確な計算や法的な確認には専門家のサポートをおすすめします。
1.Keisan
法定時間外労働、法定休日、深夜労働、月60時間超の割増などに対応したシンプルな計算ツールで、固定残業代制の計算にも使用できます。
▶サイト:残業代の計算-高精度計算サイト
2.残業代チェッカー – Smart勤怠管理
月給や労働時間などの基本情報を入力することで、未払いの残業代を簡易的に確認できるツールです。GPSによる自動打刻や時間外労働のグラフ表示などの機能も備えた「Smart勤怠管理」アプリの一部として提供されています。ただし、計算結果はあくまで概算であり、最終的な支払いや請求に関しては、専門家への相談をおすすめします。
▶サイト:残業代チェッカー-Smart勤怠管理
3.給料ふえる君
「給料ふえる君」には、1ヶ月の残業時間が60時間を超えた場合の割増率(5割増し)にも対応した計算ができ、複雑なケースに対応可能な3種類のバージョンがあります。計算の正確性を重視する場合に便利です。
▶サイト:給料ふえる君
これらのツールは残業代の目安を把握するのに役立ちますが、計算結果の精度や法的な適合性については保証されていません。最終的な支払額や請求を行う際には、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ~今すぐ確認!固定残業代の適正運用~
固定残業代を有効に運用するためには、「5つの要件」を確実に満たすことが欠かせません。就業規則や雇用契約書で制度を明確に定め、対価性や明確区分性を確保し、超過分は別途支払うことで、従業員とのトラブルを未然に防ぐことができます。また、残業代の自動計算ツールを参考にすることで、支給額の概算が容易に把握できるため、計算ミスのリスク軽減にも役立ちます。ただし、ツールの利用はあくまで参考とし、正確な計算や法的な確認が必要な場合は、専門家である社会保険労務士(社労士)に顧問として相談することをおすすめします。
社労士との顧問契約を通じて、法的な助言や最新の労務管理に関するアドバイスを得ることで、企業のリスク管理と従業員の労働環境の向上に大きなメリットがもたらされるでしょう。
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