固定残業代の見直しで、若手が辞めない会社へ:計算方法や成功事例を解説

公開日: 2025.06.28

最終更新日: 2025.07.01

残業代が払えてないのを何とかしたい」「でも人件費は抑えたい
そろそろ固定残業代をなくしたいが社員の手取りが減ってしまう」――。
このようなお悩みを抱える人事担当者や経営者の方は少なくないでしょう。特に、ワークライフバランスを重視する現代の若手世代にとって、長時間労働は企業を選ぶ上での大きな障壁となり、離職の原因にもなりかねません。
本記事では、固定残業代の見直しを検討する企業に向けて、その法的側面から具体的な削減手法、代替となる報酬制度、そして円滑な移行プロセスまで、多角的なノウハウをご紹介します。働き方改革を推進し、若手社員が長く働きたいと思える魅力的な企業を作るためのヒントとして、ぜひご活用ください。

なぜ今、固定残業代の見直しと労働時間削減が必要なのか?

1. 若手世代の価値観の変化と「働きがい」

現代の若手世代(Z世代など)は、給与や待遇はもちろんのこと、ワークライフバランス個人の成長機会企業の社会貢献性など、多様な価値観を重視しています。単に長時間働くことよりも、限られた時間で成果を出し、プライベートも充実させたいという傾向が顕著です。実際に、若手社員の転職理由として「給与・待遇への不満」に加え、「仕事内容への不満・ミスマッチ」が上位に挙げられます。これは、単に給与が高いだけでなく、働き方そのものへの不満が離職に繋がっていることを示唆しています。

現代の若手世代(Z世代など)は、給与や待遇はもちろんのこと、ワークライフバランス個人の成長機会企業の社会貢献性など、多様な価値観を重視しています。単に長時間働くことよりも、限られた時間で成果を出し、プライベートも充実させたいという傾向が顕著です。

実際に、若手社員の転職理由として「給与・待遇への不満」に加え、「仕事内容への不満・ミスマッチ」が上位に挙げられます。これは、単に給与が高いだけでなく、働き方そのものへの不満が離職に繋がっていることを示唆しています。

2. 固定残業代制度が抱える課題と法的リスク

固定残業代(みなし残業代)は、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支給する制度です。給与計算の簡素化や、求人票での給与額を高く見せられるといったメリットがある一方で、以下のような課題やリスクを抱えています。

  • 未払い残業代リスク
    固定残業時間を超えて労働した分の残業代が支払われていない場合、未払い残業代として会社が訴えられるリスクがあります。
  • 求職者とのミスマッチ
    固定残業代が導入されていることを理解せずに入社し、実態とのギャップに不満を感じ早期離職につながることがあります。
  • 採用力低下
    ワークライフバランスを重視する若手世代にとって、固定残業代制度は長時間労働を助長するイメージにつながりやすく、企業の採用力低下を招く可能性があります。
  • モチベーション低下
    どんなに早く帰っても残業代が変わらないため、効率的に働くインセンティブが働きにくい場合があります。
  • 法的要件の複雑さ
    固定残業代は、基本給と明確に区別して明記するなど、厳格な法的要件を満たす必要があります。違反すると無効と判断される可能性があります。

固定残業代廃止・見直しの具体的な手順と方法

固定残業代の廃止や見直しは、従業員にとって「不利益変更」にあたる可能性があるため、慎重な検討円滑なプロセスが不可欠です。

  • STEP.1現状把握と目的の明確化

    まずは、現在の残業実態、固定残業代の内訳、従業員の給与水準などを正確に把握しましょう。その上で、「なぜ固定残業代を見直すのか」「労働時間削減によって何を達成したいのか」という目的を明確にし、経営層や人事部門で共有することが重要です。

  • STEP.2代替報酬体系の検討と設計

    固定残業代をなくす、あるいは見直す場合、従業員の収入が減らないように代替となる報酬体系を検討することが重要です。

    (1) 基本給や各種手当への振り替え

    固定残業代相当額を基本給に組み込む、または新たな手当を創設する方法です。

    • 基本給への上乗せ
      最もシンプルで、従業員の収入安定に繋がりやすい方法です。例えばSCSKでは、残業削減インセンティブとして「健康手当(仮称)」を創設し、一定額を月例給与に上乗せしています。
    • 家族手当・住宅手当などの導入
      条件を満たせば残業代の算定基礎から除外できるため、人件費を抑えつつ従業員の生活を支援できます。ただし、一律支給の手当は残業代の算定基礎に含める必要がある場合があるので注意が必要です。
    • 調整手当
      一時的な措置として、見直しによって収入が減少する従業員に対して、一定期間調整手当を支給し、激変緩和を図ることも有効です。

    (2) 成果主義・職務給・役割給の導入

    労働時間ではなく、個人の成果職務内容・役割に基づいて報酬を決定する制度です。

    • 成果主義
      営業職の「新規顧客獲得数」「売上目標達成率」など、具体的な成果指標を明確にし、その達成度合いに応じて賞与や昇給で還元します。時間ではなく成果で評価することで、従業員は効率的に働くようになり、生産性向上に繋がります。
      • ポイント
        評価項目や評価プロセスを明確にし、公平性を確保することが重要です。短期的な成果に偏重せず、長期的な貢献も評価する仕組みを取り入れましょう。
    • 職務給・役割給
      役職や職務内容、求められる役割の難易度や責任の範囲に応じて給与を設定します。これにより、従業員は自身のキャリアパスを明確にイメージでき、スキルアップや能力開発のインセンティブになります。IT企業や製造業での導入事例が多く見られます。
  • STEP.3実質的な残業時間削減のための施策

    報酬制度の見直しと並行して、業務効率化や働き方改革を推進し、実質的に残業時間を削減する取り組みが不可欠です。

    (1) 業務効率化の徹底

    • 無駄な業務の廃止
      「これは本当に必要か?」という視点で、ルーティン業務や慣習となっている作業を見直します。
    • 業務のマニュアル化と標準化
      属人化している業務をマニュアル化し、誰でも効率的に行えるようにします。
    • 役割分担の見直し
      業務が特定の個人に集中しないよう、チーム全体で適切に分担します。
    • ITツール・RPAの導入
      定型的な事務作業やデータ入力などをRPA(Robotic Process Automation)で自動化したり、タスク管理ツールやコミュニケーションツールを活用したりすることで、大幅な効率化が期待できます。
    • 会議の効率化
      会議の目的・ゴールを明確にし、時間を厳守。事前に資料を共有し、参加者を絞るなど、無駄をなくします。

    (2) 柔軟な働き方の導入

    • フレックスタイム制・時差出勤
      従業員が自分のライフスタイルに合わせて始業・終業時間を調整できる制度です。通勤ストレスの軽減、育児・介護との両立支援、生産性向上に繋がります。
    • リモートワーク(テレワーク)
      通勤時間削減、働く場所の自由度向上により、従業員の満足度が高まります。ヤフーのようにコアタイムを廃止したフレックス勤務と組み合わせることで、より柔軟な働き方を実現できます。

    (3) 適切な人員配置とタスク管理

    • 人員配置の最適化
      繁忙期・閑散期に応じたシフト調整や、必要に応じてパートタイマー・派遣社員の活用を検討します。
    • タスク管理の徹底
      各従業員のタスクや進捗を可視化し、業務の偏りがないか、ボトルネックになっている部分がないかを確認します。これにより、適切な業務配分が可能になります。

    (4) 経営層・管理職による率先垂範と文化醸成

    上司が帰らないと自分も帰れない」という雰囲気は、長時間労働の大きな原因です。

    • 上司の早期退社
      経営層や管理職が率先して定時に帰り、有給休暇を取得することで、従業員も安心して早く帰れるようになります。
    • 「部下を育てたか」を評価項目に
      管理職の評価項目に、部下の残業時間削減や業務効率化への貢献度、チームメンバーの育成状況などを加えることで、組織全体の意識改革を促します
    • ノー残業デーの徹底
      全社的なノー残業デーを設けることで、強制的に残業を抑制し、効率化を促します。
  • STEP.4従業員への丁寧な説明と合意形成

    固定残業代の見直しは、従業員の生活に直結するため、非常にデリケートな問題です。

    • 十分な説明期間の確保
      一方的な通達ではなく、変更の必要性、目的、新しい制度の具体的な内容、従業員への影響などを丁寧に説明する期間を設けます。
    • 説明会の開催と個別面談
      全体説明会だけでなく、疑問や不安を解消するための個別面談の場を設けることで、従業員の納得感を高めます
    • 経過措置・代替措置の明示
      収入減への不安を払拭するため、代替手当の支給や段階的な移行期間の設置など、具体的な経過措置を明確に提示します。
    • 就業規則の変更と従業員の同意
      不利益変更となる場合、原則として従業員個々の同意を得るか、就業規則の変更の合理性を客観的に説明できる必要があります。
  • STEP.5成果のモニタリングと評価への連携

    労働時間削減の取り組みが適切に行われているか、そしてそれが従業員の成果にどう結びついているかを継続的にモニタリングし、人事評価に反映させることが重要です。

    • 業務可視化ツールの活用
      PCログなどを用いて、誰が、いつ、どのような業務にどれくらいの時間を費やしているかを可視化します。これにより、業務のボトルネックを発見し、改善に繋げることができます。
    • 労働生産性を評価軸に
      単に長時間働くことではなく、「残業せずに成果を生み出している社員」を高く評価する仕組みを構築しましょう。労働生産性(成果÷労働時間)を評価指標の一つにすることで、効率的な働き方を奨励します。
    • 定期的なフィードバック
      従業員に対して、労働時間と成果のバランスについて定期的にフィードバックを行い、改善を促します。

成功事例に学ぶ、固定残業代見直しと働き方改革

実際に固定残業代の見直しや労働時間削減に成功し、若手社員の離職防止にも繋げている企業の事例を見てみましょう。

  • SCSK株式会社
    「働き方改革」を推進し、月間平均残業時間を大幅に削減(35.3時間から18.1時間へ)。有給休暇取得率もほぼ100%を達成しました。残業削減インセンティブとして「健康手当(仮称)」を月例給与に上乗せすることで、従業員の収入を維持しつつ、残業削減への意識を高めました。これにより、新入社員の離職率低下にも成功しています。
  • 株式会社サイボウズ
    働き方に多様性を持たせ、離職率を28%から4%へ激減させました。短時間勤務や週3勤務、リモートワークなど、多様な働き方を選択できる制度を導入し、子育て支援や自主参加型勉強会など、社員のワークライフバランスと成長を支援する取り組みを積極的に行っています。
  • 株式会社鳥貴族ホールディングス
    外食産業ながら、無断残業・休日出勤の禁止、休暇制度の整備、店長の最高年収引き上げ、子育て支援の充実化などにより、入社半年間の離職率を8.1%という低水準で実現しています。労働環境の改善と報酬面での魅力を高めることで、人材確保に成功しています。
  • 大津建設株式会社
    ICT建機の導入や多能工化の推進、休日数の段階的増加により、作業効率を4〜5割削減し、休日を増加させました。これにより、従業員のワークライフバランスが改善し、離職防止に繋がっています
  • 日本システムウエア株式会社
    「NSWホリディ」という年1回5日間連続で取得できる特別休暇制度を設けています。部下の休暇取得をマネージャーの責任と明示することで、取得率を向上させ、従業員のワークライフバランスを支援しています。。

これらの事例は、単に残業を減らすだけでなく、柔軟な働き方を導入したり、報酬制度を見直したりすることで、従業員のエンゲージメントを高め、結果として離職率の低下や企業価値の向上に繋がることを示しています。

まとめ:自社に合った働き方改革を推進するために

固定残業代の見直しや労働時間削減は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、若手世代の価値観の変化に対応し、優秀な人材を確保・定着させるためには、避けては通れない道です。

本記事でご紹介した多様な手法の中から、自社の業界、企業文化、従業員の状況に合わせて最適な方法を選択し、段階的に導入していくことが成功の鍵となります。

「残業は悪」と決めつけるのではなく、「いかに効率的に、より高い成果を生み出すか」という視点に立ち、従業員一人ひとりが働きがいを感じ、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を構築していきましょう。

固定残業代の見直しと労働時間削減は、単なるコスト削減ではなく、企業の未来を創るための重要な投資です。この機会にぜひ、貴社らしい働き方改革の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


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