【2020年5月23日更新】
【 目 次 】
はじめに
役員報酬のことでこんな悩みを持っていませんか?
1.役員報酬を活用した節税方法で抑えるべき点
(1)役員報酬を活用した節税方法のメリット
(2)役員報酬を確実に会社の経費に落とす
イ.定期同額給与となる条件
ロ.事前確定届出給与となる条件
(3)税率を下げる役員報酬の設定方法
イ.会社の利益に対する税率
ロ.役員の税率や社会保険料負担
(4)役員の月給を設定するときは社会保険料を確認しよう
例1.月給60万5000円の場合=2ランクアップ
例2.月給60万4000円の場合=1ランクアップ
2.定期同額給与として会社の経費に落とす方法
(1)経費に落とす基本的なルール
イ.支給する期間が1ヶ月以内であること
ロ.変更するタイミングが年度の開始した日から3ヶ月以内であること
ハ.株主総会を開催し議事録に役員報酬の金額を記載すること
(2)役員報酬が経費に落とせないケース
イ.役員報酬を増額した場合
ロ.役員報酬を減額した場合
(3)毎月支給する役員報酬が支給できない場合は?
3.事前確定届出給与として会社の経費に落とす方法
(1)経費に落とすための基本的なルール
イ.決算書を作成した日から1ヶ月以内に税務署へ届出書を提出すること
ロ.税務署へ提出した届出書の内容どおりに支給すること
(2)役員賞与が会社の経費に落とせないケース
イ.役員賞与を実際に支給した金額が予定額と異なる場合
ロ.役員賞与を実際に支給した日が予定日と異なる場合
4.まとめ
『新型コロナで業績悪化した場合の役員報酬の減額について』はコチラ↓↓↓
はじめに
役員報酬のことでこんな悩みを持っていませんか?
1.節税のために役員報酬を増額すべきかわからない・・・
2.役員報酬を増額すれば社会保険料の負担が増える・・・
3.顧問の税理士は税金のアドバイスをしてくれるが社会保険のアドバイスはしてくれない・・・
今回は「役員報酬を活用した節税・人件費コストの対策」についてです。
一般的に、節税を目的に役員報酬を増額または減額することがよくありますが、実はそれだけで手元にお金を残せるとは限りません。なぜならば、役員報酬の変更は税金が変わるだけでなく、同時にそれ以外のコスト負担も変わってくるためです。
したがって、本当にお金を残すための対策は、以下の3つの側面から考えることが重要なポイントとなります。
1.会社利益に対する法人税率を下げて会社の税金を減らす
2.役員報酬に対する個人所得税率を下げて個人の税金を減らす
3.変更する役員報酬の額を工夫し、社会保険やそのほか人件費最適化の可能性を検証してみる
以上の3つのポイントを踏まえ、今回は「役員報酬を活用した節税対策」を解説します。
1.役員報酬を活用した節税方法で抑えるべき点
この項目のポイントは以下のとおりです。
1.役員報酬の金額は、毎年変更できることができる
2.会社に発生する利益とのバランスを考慮し、適正な役員報酬の額を設定すること
2.上記2で設定した役員報酬を確実に経費に落とすため、税法で定められた各要件はしっかりクリアすること
4.会社の利益を800万円以下にし、法人税率を「30%台から20%台」に下げる
5.税金だけでなくほかの人件費コストの負担も考慮し、役員報酬を工夫する(例:役員報酬1,000円の差で年間の手取額が最大9万5820円も変わることもある)。
役員報酬の金額をオーナー社長が自由に設定できるのがこの節税方法の醍醐味です。しかしそれでは、税金の計算まで自由自在にコントロールできてしまうため、役員報酬を会社の経費に落とすためにルールが設けられています。
そこで、役員報酬を活用した節税方法を紹介します。
(1)役員報酬を活用した節税方法のメリット
役員報酬はある一定の要件のもと、自由に金額を設定できます。したがって節税をする上ではとても重要な項目となります。役員報酬は上手に活用すれば節税につながりますが、逆に間違えると増税になってしまうこともあります。
(2)役員報酬を確実に会社の経費に落とす
役員報酬は、毎月支給する「定期同額給与」と賞与のようなタイミングで支給する「事前確定届出給与」に分けることができます。役員への賞与は原則経費にすることができませんが、「事前確定届出給与」という形で支給すれば確実に経費に落とすことができます。ここでは簡単な説明までにし、詳細については後述の「2、定期同額給与として会社の経費に落とす方法」と「3、事前確定届出給与として会社の経費に落とす方法」で解説します。
イ.定期同額給与となる条件
役員に対する月給の金額が毎月同額であること
以下がイメージ
ロ.事前確定届出給与となる条件
役員に対する役員賞与の額と支給時期を、事前に税務署に届け出し、その後予定通り支給すること
【ここで節税のポイント】
役員報酬を増額するときは月給よりも役員賞与がおススメ
今期の業績が予測よりも低かった場合、役員賞与のほうがコントロールするのに便利です。たとえば、役員報酬を月20万円・年間240万円増やすとき、月給で支給すると会社が赤字でも減らすことはできませんが、役員賞与の場合、支給しないこともできます。
(3)税率を下げる役員報酬の設定方法
一般的に、会社には会社の利益に、そして役員には役員報酬に対してそれぞれ以下のような税金や人件費コストの負担が発生します。
1.会社 → ①法人税 ②住民税 ③事業税
2.役員 → ①所得税 ②住民税 ③社会保険料
したがって、会社に利益を残すのか、役員報酬の金額をいくらで設定するのかによって、それぞれ会社と役員にかかる負担が変動します。
イ.会社の利益に対する税率
中小企業の場合は、会社の利益に応じて3段階に分かれています。
法人の所得(会社の利益) | 税率 |
---|---|
年400万円以下 | 21.4% |
年400万円超800万円以下 | 23.2% |
年800万円超 | 33.8% |
【結論】
会社の利益を800万円以下にすれば税率は20%台にすることができます。
ロ.役員の税率や社会保険料負担
役員報酬に対する個人所得税の税率は、年収に応じて7段階(5%~45%)に分かれ、住民税10%と社会保険料率をプラスしたのが役員の税率です。
しかし一方で、社会保険料は年収でなく「月給の役員報酬の金額」に応じて負担が上がりますが、上限枠があります。
そのため、それ以上月の役員報酬が増えても社会保険料の負担は増えません。したがって結果的に社会保険料の負担率が下がっていきます。
社会保険の種類 | 上限 |
---|---|
健康保険と介護保険 | 月135万円が上限 |
厚生年金 | 月60万5000円が上限 |
実際にシミュレーションをしてみましょう。役員の年収を例に税率をシミュレーションします。今回は扶養家族の影響を受けないように扶養親族なしの役員とします。あくまでも一つの目安にすぎませんので、ご了承ください。社会保険料の負担率は個人負担分の概算で計算しています。
役員の 年収額 |
税金・社会保険 負担合計 |
負担率の 内訳 |
---|---|---|
~年収400万円 | 30% | (所得税5%、住民税10%、社会保険料の負担率15%) |
年収500万円 | 35% | (所得税10%、住民税10%、社会保険料の負担率15%) |
年収1000万円 | 45% | (所得税20%、住民税10%、社会保険料の負担率13%) |
年収1500万円 | 53% | (所得税33%、住民税10%、社会保険料の負担率10%) |
年収2000万円 | 51% | (所得税33%、住民税10%、社会保険料の負担率8%) |
年収2500万円 | 57% | (所得税40%、住民税10%、社会保険料の負担率7%) |
上記はあくまでも一人当たりの税率です。たとえば、役員報酬1000万円を一人に支給すると税率は45%ですが、夫婦で500万円ずつに分ければ税率は35%に下げられます。
【ここで節税のポイント】
住宅ローン控除がある場合は役員報酬の金額を高めに設定しよう
たとえば、年収1500万円の場合、住宅ローン控除により所得税・住民税の全額が控除されると、負担するのは社会保険料のみです。上記の税率を例にすると、年収に対する負担率は社会保険料率10%だけになります。
(4)役員の月給を設定するときは社会保険料を意識しよう
社会保険料を負担する金額は月給のランクで計算されます。このランクのことを「標準報酬月額」といいます。月給が2ランク以上変わった状態が3ヶ月間続いた場合、標準報酬月額が変更となりその結果、社会保険料が変更後の標準報酬月額に応じた金額に変更します。そのため、役員の月給を変更するときのポイントは次の通りになります。もし2ランク以上変わった場合には日本年金機構へ被保険者報酬月額変更届を出す必要もあるため注意が必要です。
参考:標準報酬月額の表はコチラ↓↓↓
【全国健康保険協会:東京都保険料額表(令和5年)】
参考:被保険者報酬月額変更届はコチラ↓↓↓
日本年金機構(被保険者報酬月額変更届)
1.月給を増やす場合:2ランク(標準報酬月額)以上アップしないようにすること
2.月給を減らす場合:2ランク(標準報酬月額)以上ダウンするようにすること
【ここで節税のポイント】
役員の月給が1000円(年間1万2000円)違うだけで社会保険料の金額が大きく変動する
月給55万円から増やす金額が「60万5000円」か「64万9000円」では社会保険料の差は次の通りになります。
ちなみに社会保険料率は大阪府の協会けんぽをもとに介護保険を含め、個人負担分で計算しています。(平成29年9月以降の料率を用いています)
例1.月給60万5000円の場合=2ランクアップ
1.報酬月額:56万円→62万円にアップ
2.社会保険料の月額:報酬月額62万円×14.975%=9万2845円
3.社会保険料の年額:9万2845円×12ヶ月=111万4140円
例2.月給60万4000円の場合=1ランクアップ
1.報酬月額:56万円のままに据え置き
2.社会保険料の月額:報酬月額56万円×14.975%=8万3860円
3.社会保険料の年額:8万3860円×12ヶ月=100万6320円
上記の結果から月給を1000円(年間1万2000円)減らすことにより、社会保険料が月8985円・年間10万7820円減ります。そのため、役員の年間手取り金額は「10万7820円-1万2000円=9万5820円」増やすことができます。
2.定期同額給与として会社の経費に落とす方法
この項目のポイント
□ 役員報酬を毎月支給すること
□ 金額の変更は年度の開始した日から3ヶ月以内で行うこと
□ 年度の途中で金額を変更すると月給の一部が会社の経費に落とせない
□ 役員報酬が支給できないときでも経理処理を忘れずに行うこと
役員報酬を会社の経費に落とす方法を解説します。
(1)経費に落とす基本的なルール
役員報酬を会社の経費に落とすためのルールは次の通りです。
イ.支給する期間が1ヶ月以内であること
月給で支給する場合は問題ありませんが、3ヶ月や半年に一回支給する場合は会社の経費に落とせません。
ロ.変更するタイミングが年度の開始した日から3ヶ月以内であること
たとえば、4月1日から年度が開始する場合は、3ヶ月以内の6月末までに変更しなければ会社の経費に落とせません。つまり、6月の役員報酬を支給する日までに金額を設定する必要があります。
以下がイメージ
ハ.株主総会を開催し議事録に役員報酬の金額を記載すること
役員報酬を変更するかどうかにかかわらず、株主総会を開催し設定した金額を株主総会議事録に記載しましょう。
『役員報酬(定期同額給与)の変更で必要な議事録の雛形(ひな形・雛型とは?(無料ダウンロードあり)』はコチラ↓↓↓
(2)役員報酬が経費に落とせないケース
年度の開始した日から3か月を過ぎて変更すると、役員報酬の一部が経費に落とせないケースが発生してしまいます。
イ.役員報酬を増額した場合
たとえば、9月から役員報酬を月30万円増やした場合は、「30万円×7か月間=210万円」は会社の経費にすることができません。
ロ.役員報酬を減額した場合
たとえば、10月から役員報酬を月30万円減らした場合は、「30万円×6か月間=180万円」は会社の経費に落とせません。
(3)毎月支給する役員報酬が支給できない場合は?
資金繰りの都合により、その月に役員報酬を支給できないときは、「役員が会社へ貸し付けた」という経理処理をすれば、会社の経費に落とせます。
3.事前確定届出給与として会社の経費に落とす方法
この項目のポイント
□ 定期同額給与よりも会社の経費に落とす条件が厳しい
□ 決算書を作成した日から1ヶ月以内の税務署へ支給する予定の役員賞与について届出書を提出すること
□ 届出書の内容と全く同じ条件で役員賞与を支給すること
□ 届出書の内容と異なる条件で支給すれば役員賞与は会社の経費に落とせない
役員賞与を事前確定届出給与として経費に落とせる条件は、定期同額給与よりも厳しいです。
(1)経費に落とすための基本的なルール
毎月支給される役員報酬を会社の経費に落とすためのルールは次の通りです。
イ.決算書を作成した日から1ヶ月以内に税務署へ届出書を提出すること
届出書に記載する内容は次の通りになります。
□ 支給対象者:山田太郎
□ 支給金額:240万円
□ 支給日:平成29年11月30日
ロ.税務署へ提出した届出書の内容どおりに支給すること
上記の山田太郎を例にすると、本人に役員賞与240万円を平成29年11月30日に支給することが会社の経費に落とせる条件です。
(2)役員賞与が会社の経費に落とせないケース
税務署へ届出書を提出していない役員賞与はもちろん、提出しても会社の経費に落とせないケースがあります。
イ.役員賞与を実際に支給した金額が予定額と異なる場合
1.支給予定額240万円→実際に支給した金額230万円
2.会社の経費に落とせない金額:役員賞与の支給額230万円
ロ.役員賞与を実際に支給した日が予定日と異なる場合
1.支給予定日:平成29年11月30日→実際に支給した日:平成29年12月1日
2.会社の経費に落とせない金額:役員賞与の支給額240万円
4.まとめ
役員報酬を活用した節税対策を突き詰めると3つに集約されます。
□ 税法の要件を正しくクリアし役員報酬・役員賞与を確実に会社の経費に落とす
□ 会社に対する法人税と役員に対する個人所得税の税率をともに下げる
□ 社会保険料の負担を軽くするために、標準報酬月額の仕組みを考慮した役員報酬額を設定する
以上3つの側面から考えることが、役員報酬を活用した節税効果を最大限にするポイントだといえます。