【令和2年4月24日更新】
- はじめに 建設業における一人親方とは
- 一人親方となる条件
- 一人親方がするべき4つの手続き
- 一人親方がやるべきこと~確定申告編~
- 一人親方がやるべきこと~社会保険・共済加入編~
- 一人親方がやるべきこと~労災保険特別加入編~
- 一人親方がやるべきこと~民間保険加入編~
- おわりに まとめ
・手続きその1 確定申告
・手続きその2 社会保険と共済加入
・手続きその3 労災保険の特別加入
・手続きその4 民間保険の加入
・確定申告とは
・「外注」と「給与」の違い
・外注なら「確定申告」、給与なら「年末調整」
・確定申告の方法1「青色申告」
・確定申告の方法2「白色申告」
・確定申告には期限がある
・事前に売上と経費となる資料をまとめておく
・一人親方の確定申告で主に経費となる項目
・社会保険の加入手続
・健康保険
・年金
・小規模企業共済をに加入し将来の退職金を形成する
・収入保障保険
・賠償責任保険
1 はじめに 建設業における一人親方とは
一人親方とは建設業などで労働者を雇用せずに自分自身と家族だけで事業を行う事業主のこと
街中で建設現場をみると「建設業界で働く人は大変だな。」と感じる方も多いかと思います。そしてそこ働いている人たちはひとつの企業の従業員と思いがちですが、実は、個人で工事の一部を請負う、いわゆる「一人親方」が数多く活躍されているのです。
「一人親方」とは
をいいます。
具体的には、大工さん、左官屋さん、とび職人の方など、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、 破壊もしくは、解体またはその準備の事業を営む方や、除染を目的として行う高圧水による工作物の洗浄や側溝にたまった堆積物(たいせきぶつ)の除去などの原状回復の事業をする方のうち、労働者を雇用せずに自分自身と家族などだけで事業を行う事業主のことをいいます。
2 一人親方となる条件
先ほど申し上げた「一人親方」とは建設業において個人事業主又は法人の代表者で労働者を雇用せずに自分自身と家族などだけで事業を行う事業主のことを言います。
具体的には以下のいずれかに当てはまる場合は、一人親方に該当すると考えられます。
・会社に雇用されずに、個人で仕事を請け負っている
・特定の会社に所属しているが、その会社と請負で仕事を行っている
・グループで仕事をしているが、お互いに雇用関係はない
・親方の下で技能修得中の身であるが(弟子、見習い等として)、この親方と は雇用関係がない
3 一人親方がするべき4つの手続き
そして一人親方は個人事業主扱いですので、かならず自分でしなくてはいけない手続きが4つあります。
手続きその1 確定申告
1年間の所得を計算し税務署へ申告し税金を支払う。また申告の方法には「青色申告」と「白色申告」がある。
手続きその2 社会保険と共済加入
健康保険や国民年金などの社会保険加入手続き、小規模企業共済の加入手続きを行う。
手続きその3 労災保険の特別加入
一人親方の労災保険特別加入手続きを行う。
手続きその4 民間保険の加入
収入保障保険や賠償責任保険の加入手続きを行う。
ちなみに雇用保険は雇用関係にある従業員への保険制度なので個人事業主の「一人親方」加入はできません。
3 一人親方がやるべきこと~確定申告編~
ではここからは、前述した「建設業の一人親方がするべき4つの手続き」を一つずつ紹介していきます。
確定申告とは
まず初めに「確定申告」とは、税務署に対し1年間の「所得」を計算し申告することで、それに応じた税金(所得税や消費税)を納めることをいいます。
「所得」とは、収入から経費を差し引いたものです。
「外注」と「給与」の違い
しかしここで注意していただきたいことがある。
それは収入が「雇用契約=給与」と「請負契約=外注」のどちらに該当するかということです。
- 「雇用契約」
労働者が使用者に対して「労働すること」を約束し、使用者が労働者の労働に対して報酬を与えることにより成立する契約のこと - 「請負契約」
相手に仕事を完成することを約束し、相手がその仕事の結果に対して報酬を支払うことにより成立する契約のこと
分かりやすく表現するのであれば、あなたの収入が労働時間に応じて算出される場合は「雇用契約」、完成した仕事量に応じて算出される場合は「請負契約」である場合が多い。
外注なら「確定申告」、給与なら「年末調整」
請負契約=外注となった場合は、前述の確定申告が必要となり
という方法で所得を計算し、税務署に申告し所得税を支払う必要がある。
従って収入に関する請求書や、支出に関する領収証などを保管し集計する必要も出てくる。
一方で、雇用契約=給与となる場合は確定申告ではなく、給与を支払う会社側で年末調整の扱いとなり
という方法で自動的に所得が算出される。
(注)給与所得控除とは(国税庁HP)
したがって請求書や領収証という概念もなくあったとしても保管の必要もない。
簡単に言えばサラリーマンと同じということになる。
以下からは、上記のうち確定申告が必要な「請負契約=外注」の方を対象に説明することにします。
まず確定申告では、その申告方法によって青色申告と白色申告の2種類があります。
2つの違いを簡単にお伝えしたいと思います。
確定申告の方法1「青色申告」
青色申告は、白色申告を比べるとメリットが多い。
・65万円の控除が受けられる
・赤字を3年間繰り越して所得収入と相殺できる
・家族への給与が全額必要経費になる
・30万円未満の減価償却資産は一括で経費にすることができる(注1.2)
など個人事業主の方にとってはとてもありがたい節税対策をとれる申告方法です。
(注1)減価償却のあらまし(少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(国税庁HP))
(注2)第28条の2((中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例))関係(国税庁HP)
しかしこれらの特典を受けるためには、下記の2つの届出書をそれぞれ期限内に税務署に提出する必要あります。
「個人事業の開業・廃業等届出書」
「個人事業の開業・廃業等届出書」 提出期限 → 開業後1か月以内
届出書の詳細はコチラ⇒ 個人事業の開業届出・廃業届出等手続(国税庁HP)
「青色申告承認届出書」
「青色申告承認届出書」 提出期限 → 開業後2か月以内
届出書の詳細はコチラ⇒ 青色申告承認届出書(国税庁HP)
次に毎月の業務としてお金の流れを複式簿記にて計上しなくてなりません。そして仕事で使った交通費やガソリン代、道具代などの領収書をとっておくことを忘れないでください。
確定申告の方法2「白色申告」
次に白色申告の説明をします。
白色申告のメリットは手間がかからないことです。白色申告に必要な単式簿記というのは一般的な家計簿と同じようなもので、誰でも簡単に作成できます。
節税対策をとるほど事業所得がない個人事業主の方には手間と時間を考えるとむいているかもしれません。
確定申告には期限がある
確定申告は毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年の2月16日から3月15日までの間に集計を行い申告し、所得税を納付する必要があります。
(注)消費税については翌年3月15日でなく翌年3月31日までが申告期限
事前に売上と経費となる資料をまとめておく
一人親方の場合、事業と生活が密接に関係していることが多いです。
したがって普段から事業に関する経費とプライベートに関する経費を区分し整理しておく必要があります。
しかし、自宅の一室などを事務所として使っていたり、車を仕事とプライベート兼用している場合も少なくない。その場合、家賃や光熱費については自宅面積のうち事業で使用している割合分を経費にすることができます。
一人親方の確定申告で主に経費となる項目
一人親方が確定申告するうえで経費となる項目を以下にまとめました。
・備品代(工具、パソコン、事務品など)
・車両代
・高速代、ガソリン代、駐車料など(電車代など領収証がない場合はメモに控えておく)
・家賃
・電話代
・接待費
・会議費(現場打合せで缶ジュースなどを購入した場合はメモに控えておく)
・消費税
・後で紹介する労災特別加入に関する労働保険事務組合への会費(特別加入保険料自体は経費でなく社会保険料控除の対象となる)
・専従者給与
※接待費、会議費は「内容、相手名」などをレシートや領収証に記載する
※所得税、健康保険料、国民年金保険料は経費とならない
4 一人親方がやるべきこと~社会保険・共済加入編~
社会保険の加入手続
次に健康保険と国民年金などの社会保険についてご説明します。
健康保険
建設業の一人親方が加入できる国民健康保険には①建設業の国保組合と②市区町村が運営する国民健康保険があります。
建設業に関わる国保組合では、業務以外でのケガや病気など治療のための療養の給付や休業中の手当金の給付等、独自の福利厚生サービスを行っているところもあります。国保組合に加入するには、その国保組合の母体となる業種団体の会員になることが必要です。
国保組合に加入できない場合は、市区町村が運営する国民健康保険に加入して下さい。
年金
次に年金についてご説明します。
一人親方となると自分で国民年金に加入し手続きをとらなくてはなければなりません。
また、国民年金に上乗せする国民年金基金に加入することにより、老齢年金の受給額に上乗せされた金額が受け取れます。国民年金基金各都道府県に地域型国民年金基金がある他、業種別の職能型国民年金基金があり、建設業関連では5つの基金が設立されています。
国民年金基金には終身年金(2種類)と確定年金(3種類)があり、それらを組み合わせ、自らが希望する年金プランを作ることができます。
(注)国民年金基金制度とは?
このほか国民年金と併せて納付できる付加年金(月額400円)も2年以上納めた時点でモトが取れるためおすすめである。
(注)付加保険料の納付のご案内(日本年金機構HP)
小規模企業共済をに加入し将来の退職金を形成する
次に一人親方が加入すべき”自身の将来の退職金”として小規模企業共済についてご説明します。
サラリーマンには退職金がありますが、一人親方は自分自身が経営者であり退職金がありません。
したがって自分自身で早い段階から退職後の資金を形成しておくことが大切です。
そんな場合は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が扱う「小規模企業共済」に加入することがお勧めです。これは将来の自分自身の退職金の積立制度です。この制度のメリットは掛け金の全額が所得控除の対象となり、かつ将来これを受け取った時には「退職所得控除」が適用されるため、所得税がほどんどかからないのが特徴です。単純に積立預金などをしても所得控除にはならないがこの制度を利用すれば所得控除として節税をしながら資産形成ができるためメリットが多いと言えます。
5 一人親方がやるべきこと~労災保険特別加入編~
一人親方にとって「労災保険特別加入制度」は必須加入の制度
さいごに、一人親方が必ず加入すべき労災保険特別加入制度についてご説明します。
建設現場では、元請業者が一括して下請業者の雇用者の労災保険に加入するのが原則ですが、直接雇用されていない一人親方は、この労災保険の適用を受けることができません。したがって万が一、業務上または通勤途中で事故にあっても、労災保険や健康保険が適用されず、その治療費は全額自分で負担しなげればなりません。またその事故で障害が残ったり、死亡した場合も何ら補償がありません。
そこでこれを回避するため、「一人親方」でも労災保険に特別に加入することができる制度があります。これを一人親方の労災保険特別加入制度といいます。
一人親方が労災保険に特別に加入するには、都道府県労働局長が認可した労働保険事務を代行する団体(労働保険事務組合という)に入会することが必要になります。
この団体(労働保険事務組合)通じて加入をし、加入団体を「事業主」、一人親方を「労働者」とみなして労災保険の適用が行われます。
一人親方の労災保険特別加入の事例集はコチラ↓↓↓
『みんなで進める一人親方の労災保険特別加入の事例集』
6 一人親方がやるべきこと~民間保険加入編~
補足として、一人親方にお勧めの民間保険についてもご説明します。
これまでに説明した社会保険や共済、労働保険などでは保障されない部分は、民間保険に加入してカバーするのが良いでしょう。
一人親方にお勧めの民間保険は下記の2つになります。
2 賠償責任保険
以下それぞれについて説明します。
収入保障保険
もし契約者が亡くなったとき、その後のこった遺族に対して所得の保障が行われる保険です。
収入保障保険の最大の特徴は、保険金が一括ではなく、契約者が死亡した月から契約期間終了まで毎月定額で受け取れる保険です。
したがって自分自身に何かあった場合でも「子供が大人になるまで」や「妻のその後の生計」の資金として保険を受けることができます。
一人親方として、もし自分の身に何かあった場合でも、遺族が収入に困らず生活できるという安心を得ることができる保険です。
賠償責任保険
もし業務上に起きた偶然な事故により、第三者に対する法律上の賠償責任を負担した場合、生じてしまった損害(つまり賠償金の支払や負担する費用)を保障する保険のことである。
一人親方の現場は危険がたくさんあります。
万が一に備え労災保険の特別加入プラス民間の保険に加入しさらに安心を得ることをお勧めします。
7 おわりに まとめ
お分かりいただけたでしょうか。
今回の記事を一読していただければ、建設現場における「一人親方」とはなにか、また必要な手続きがなにかがお分かりいただけたと思います。
一人親方は元請企業と同じ環境下で作業をするにもかかわらず、元請請企業の社会保険や労災保険の補償がうけることができません。しかし今回紹介した各々加入手続きをすれば、補償を受けることができるのです。
しかしだからと言って、すべて自分自身で進めることも注意が必要です。
なぜならば、せっかく社会保険・共済・労災保険に加入しても、その後給付の種類や申請方法を知らないと、申請期限や添付書類の不備で不支給になったり、給付までに時間がかかってしまうことがあります。
また「確定申告」については、税金や複式簿記の知識も必要なだけでなく、まちがった申告をすれば、無駄な税金を払ってしまうことになります。
またもし税務署の調査が入った場合は、自分自身で対応しなければならず、結果的に税務署の言うがままの追徴税を求めらる可能性もあります。
民間保険についても、保険会社によってさまざまな商品があり保障の内容も保険料も違います。
したがって、一人親方がこれらの手続きを進めるには、専門家である税理士、社会保険労務士そして労働保険事務組合に相談することが得策でしょう。
経営者の方は必見!労災保険特別加入制度の7つの誤解はこちら↓↓↓
【労災保険の落とし穴】特別加入制度未加入の方の労災保険の7つの誤解
建設業の社長は必見!労災保険特別加入の概要はこちら↓↓↓
『役員も労災保険に加入できる「中小事業主特別加入」』
一人親方が加入できる労災保険の概要はこちら↓↓↓
『一人親方が加入できる労災保険とは?』
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『みんなで進める一人親方の労災保険特別加入の事例集』
一人親方の労災保険特別加入制度のメリットはコチラ↓↓↓
『工事現場で働く一人親方の労災保険(特別加入)のメリットってなに?』
一人親方の労災保険特別加入制度の概要はコチラ↓↓↓
『建設業などの一人親方が加入できる労災保険特別加入制度とは?』