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雇用関係助成金の多くが増額される「生産性要件」とは?

【令和2年5月11日更新】

生産性要件とは

生産性を向上させるだけで助成金が増額されます

雇用関係の助成金には「生産性要件」というものあり、この要件を満たした場合は助成金の支給額が増額されます。
例えば、キャリアアップ助成金で「生産性要件」を満たせば、以下のように受給できる助成金額が増額されます。同じ人を雇い入れただけなのに助成金額が大きくなるなら是非活用したいですね。

キャリアアップ助成金増額

 いま助成金を支給する国は、個々の労働者が生み出す付加価値(生産性)を高めた企業に多く支給するようになっています。しかし助成金については社会保険労務士の専門分野ですが、「生産性を上げる」ことについては経営指導する税理士の専門分野です。

そこで税理士であり社会保険労務士である私が、この「生産性要件」について、わかりやすくまとめました。

1.損益計算書等において生産性が1%~6%以上伸びた場合、助成金が割増となる
2.今後は社会保険労務士だけでなく税理士や金融機関との連携が必要不可欠

1.創設の背景・趣旨

今後の助成金は、雇用だけでなく付加価値の向上(生産性の向上)も実現した会社に手厚くなる

我が国は、今後労働力人口の減少が見込まれる中で経済成長を図っていくためには、個々の労働者が生み出す付加価値(生産性)を高めていくことが不可欠です。
このため、企業における生産性向上の取組みを支援するため、生産性を向上させた企業が労働関係助成金(一部)を利用する場合、その助成額又は助成率を割増します。

2.生産性要件

助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が
・その3年前に比べて6%以上伸びていること  または、
・その3年前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

労働関係助成金は、助成金を申請する事業所が、次の方法で計算した「生産性要件」を満たしている場合に、助成の割増を行います。

助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、

  • その3年前に比べて6%以上伸びていること または、
  • その3年前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること(※注意)

(具体的な助成額又は助成率は各助成金のパンフレット等で確認下さい。)

(※注意)1%以上(6%未満)の場合、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
→「事業性評価」とは、都道府県労働局が、助成金を申請する事業所の承諾を得た上で、事業の見立て(市場での成長性、競争優位性、事業特性及び経営資源・強み等)を与信取引等のある金融機関に照会させていただき、その回答を参考にして、割増支給の判断を行うものです。なお、「与信取引」とは、金融機関から借入を受けている場合の他に、借入残高がなくとも、借入限度額(借入の際の設定上限金額)が設定されている場合等も該当します。

「生産性」の計算方法

生産性=営業利益、人件費、減価償却費、動産・不動産賃借料、租税公課の合計額を雇用保険被保険者数で除した額

「生産性」は次の計算式によって計算します

「生産性」
= (営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷ 雇用保険被保険者数

生産性計算式

3.「生産性要件」の具体的な計算方法(一般企業)

1.「生産性要件算定シート」はダウンロードが可能
2.助成金の支給申請に当たっては、各勘定科目の額の証拠書類(損益計算書、総勘定元帳など)の提出が必要
3.2を考慮すると、今後は社会保険労務士だけでなく税理士との連携が必要不可欠

生産性要件算定シートの記入例はこちら

生産性要件算定シートの記入例は以下のとおりです。

生産性要件算定シート記載例

「生産性要件算定シート」はダウンロードが可能です

● 生産性要件を算定するための「生産性要件算定シート」を厚生労働省のホームページに掲載していますが、下記からもダウンロードが可能です。該当する勘定科目の額を損益計算書や総勘定元帳の各項目から転記することにより生産性を算定できます。

ダウンロードはこちらから↓↓


⑴ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2号)[Excel形式:26KB]

⑵ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2号)(社会福祉法人等(注))[Excel形式:240KB]
(注)企業会計基準を用いている社会福祉法人、医療法人、公益法人、NPO法人及び学校法人の場合

⑶ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-1号)(社会福祉法人)[Excel形式:84KB]

⑷ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-2号)(医療法人)[Excel形式:91KB]

⑸ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-3号)(公益法人)[Excel形式:86KB]

⑹ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-4号)(NPO法人)[Excel形式:84KB]

⑺ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-5号)(学校法人)[Excel形式:84KB]

⑻ 生産性要件算定シート(共通要領 様式第2-6号)(個人事業主)[Excel形式:170KB]

各業種ごとの記入例とポイントはこちらにあります。
※ 各業種ごとの記入例とポイント〔PDF形式:393KB〕

業種別生産性要件算定シート記入例

● なお、助成金の支給申請に当たっては、各勘定科目の額の証拠書類(損益計算書、総勘定元帳など)の提出が必要となります。

生産性要件算定シートの項目の説明

生産性要件算定シートの各項目の説明を以下にまとめました。

スマホで閲覧している方へ。下の表は左右にスライドすると全て確認できます

項目(P2の各項目) 説明
生産性の算定対象となる企業名・支店名等 損益計算書等の財務諸表は企業単位で作成するため、生産性も企業単位で算定されますが、助成金は原則として事業所単位で支給申請しますので、生産性は事業所の単位に最も近い単位の組織で算定します。具体的には、連結決算を採用の場合は連結前の個別企業単位の財務諸表から、また支店独立会計制度を採用の場合は支店単位の財務諸表から必要な勘定科目の額を転記します。「生産性の算定対象となる企業名 ・支店名等」「申請事業所名」欄はこれを踏まえて記入して下さい。

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
中小企業において財務諸表を事業所別に作成しているところは少ない。したがって、今後は事前に税理士に相談し本支店会計などの導入を検討した方がよいでしょう。
①~⑤ 損益計算書の「営業費用」の「販売費及び一般管理費」の中に含まれる①~④に該当する勘定科目の額や、⑤の「営業利益」として計上されている額を損益計算書(内訳書)や総勘定元帳から転記します。製造業や建設業の場合、①~④に該当する科目は、損益計算書上の「売上原価」の中にも含まれるので、それらの額も、「製造原価報告書(明細書)」「完成工事原価報告書」「兼業事業売上原価報告書」か総勘定元帳から転記する必要があります。なお、これに該当する勘定科目を記載する場合は勘定科目の名称の頭にそれぞれ「(製)」「(工)」「(兼)」と付します。

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
これは決算書や試算表でいう「製造原価報告書」や「完成工事原価報告書」のことを指しています。「製造原価報告書」は製造業、「完成工事原価報告書」は建設業に不可欠な財務諸表の一つです。たとえば小売業や卸売業など商品を販売する業種では、仕入額=売上原価になりますが、製造業など販売する製品を自社で製造する場合は、材料や経費が売上原価になります。もちろんその中には製造にかかる直接的な人件費や機械などの減価償却費、工場の地代・倉庫代、動産賃借料、土地建物の固定資産税や償却資産税なども含まれまる。建設業も完成工事原価報告書を建物等を建設するため考え方は同じである。したがって「製造原価報告書」や「完成工事原価報告書」に含まれる①人件費②減価償却費③動産・不動産賃借料④租税公課も生産性を算定する上で考慮する必要があります。具体的には税理士に相談するかまたは自社の決算書や試算表に「製造原価報告書」や「完成工事原価報告書」という名称の財務諸表が含まれているかで判断が容易です。
①人件費 <対象となるもの>

  • 従業員の給与、通勤費など諸手当、賞与、退職金に相当するもの
    ※役員の「報酬、賞与、法定福利費、各種手当、退職慰労金等」は対象外となっているため注意が必要
  • 「法定福利費」(社会保険料等)、「福利厚生費」
  • 「雑給」(臨時アルバイト等の給与)
  • 「研修費」「教育訓練費」(社員研修の費用)
  • 「製造原価報告書(明細書)」「完成工事原価報告書」等に含まれるこれらの勘定科目については、通常「労務費」としてまとめられていますので、その額を転記しても差し支えありません(ただし「労務外注費」が含まれる場合はそれを控除します。)。
<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
注意すべき点は役員の「報酬、賞与、法定福利費、各種手当、退職慰労金等」は対象外となっていることです。もちろんそれにかかる社会保険料なども含まれます。また直接雇用する労働者への人件費が対象となるため、外注費や派遣社員への費用は人件費には含みません。一方で常時雇用していなくても日雇労働者、臨時労働者、出向により自社で直接雇用している者へ支払った費用は人件費に含まれます。通勤費も含みます(福利厚生費として会計処理している場合のみ)。

<対象とならないもの>

  • 役員の「報酬、賞与、法定福利費、各種手当、退職慰労金等」
    ※これが計上される年度とそうでない年度の差が大きくなりすぎるため除外します。
  • 出張旅費などの「旅費交通費」(通勤費を「旅費交通費」の中に含めている場合を含む)
  • 派遣労働者に係る派遣手数料に相当するもの「外注加工費」など)
<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
注意すべき点は通勤費に関する会計の扱いである。もし福利厚生費として会計処理している場合は人件費として含まれるが、旅費交通費として会計処理している場合は人件費には含まれません。
②減価償却費 固定資産等に関する「減価償却費」

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
減価償却費については、租税特別措置法に基づく特別償却も含めることができると考えられる。
③動産・不動産賃借料 「地代家賃」「賃借料」など

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
動産賃借料は、リース物件を「リース料」で処理されていることもあるため「賃借料」に含まれているか確認しましょう。
不動産賃借料については、同族会社などの場合、経営者が所有する土地建物を利用して事業をしていることも多い。しかし支払っている地代家賃の額が一般相場とかけ離れている場合、その部分は該当しないことも考えられるため事前に個別相談する方がいいでしょう。
④租税公課 消費税、固定資産税、償却資産税、印紙代など

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
固定資産税などは分割納付、一括納付もあるため支払方法を確認が必要です。
消費税についても「消費税等」で処理されていることもあるため「租税公課」に含まれている確認しましょう。
⑤営業利益 営業利益

<税理士・社会保険労務士の寺田からポイント>
本業で稼いだ利益のことをいうため、しっかり利益を計上すすることが重要です。また収入のうち雑収入などで処理しているものは営業外収益であるため営業利益には反映されません。一旦雑収入で処理されている収入が営業外収益なのか営業収益なのか再度確認する方がいいでしょう。
(1)付加価値 ①~⑤に入力した値の合計を記入します。
(2)雇用保険被保険者数 各事業所で管理しているデータ(労働保険料申告書にも用います)を利用してください。人数は、財務諸表の作成単位(企業単位、支店単位)と同じ単位の組織の人記入(企業や支店の中に複数の事業所がある場合はその事業所の被保険者数を合算し、その事業所名と事業所番号を記した任意の書面を添付)して下さい。助成金申請事業所のAとBの会計年度の末日現在の人数を記入して下さい。なお、雇用保険被保険者数には、「日雇労働被保険者」や季節的に雇用される「短期雇用特例被保険者」は除きます。
(3)生産性 付加価値((1)欄)を雇用保険被保険者数で割った値を記入します。
(小数点以下四捨五入)
(4)生産性の伸び 直近年度(B)とBの3年度前(A)の伸び率を記入します。
(小数点以下2桁切り捨て)
6%以上又は1%以上(6%未満)(※)の場合に生産性要件を満たすこととなります。
(※)1%以上(6%未満)の場合は、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていることが必要です。
(5)生産性の向上に効果があった事業主の取組 具体的な内容を記入してください。
(例:従業員の能力開発・意欲(働きがい)の向上、働き方や働きやすさの改革、業務の効率性や成果を高める設備の導入など)

4.「生産性要件」が設定される助成金

労働関係助成金のうち生産性要件が設定される助成金は、雇用維持や障害者の雇用環境整備など一部の助成金を除いた以下の助成金が対象となります。

スマホで閲覧している方へ。下の表は左右にスライドすると全て確認できます

助成金内容 助成金名
(再就職支援関係) 労働移動支援助成金
(早期雇入れ支援コース)
(転職・再就職拡大支援関係) 中途採用等支援助成金
(中途採用拡大コース、生涯現役起業支援コース)
(雇入れ関係) 地域雇用開発助成金
(地域雇用開発コース)
(雇用環境の整備関係) 1 人材確保等支援助成金
(雇用管理制度助成コース、介護福祉機器助成コース、介護・保育労働者雇用管理制度助成コース、人事評価改善等助成コース、設備改善等支援コース、働き方改革支援コース、雇用管理制度助成コース(建設分野)、若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)、作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)、外国人労働者就労環境整備助成コース)
2 65歳超雇用推進助成金
(高年齢者雇用環境整備支援コース、高年齢者無期雇用転換コース)
(仕事と家庭の両立関係) 両立支援等助成金
(出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース、再雇用者評価処遇コース、女性活躍加速化コース)
(キャリアアップ・人材育成関係) 1 キャリアアップ助成金
(すべてのコース:正社員化コース、賃金規定等改定コース、健康診断制度コース、賃金規定等共通化コース、諸手当制度共通化コース、選択的適用拡大導入時処遇改善コース、短時間労働者労働時間延長コース)
2 人材開発支援助成金
(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース)
(最低賃金引き上げ関係) 業務改善助成金

今後の助成金は税理士と社会保険労務士の連携が必要

「生産性要件」を満たすには「社会保険労務士」と「税理士」と連携が必要となります

これまで助成金の申請は、社会保険労務士がすべて行っていました。しかし今後は「生産性要件」を求める助成金が多くなってくることが予想されます。
しかし「生産性要件」は会計情報を基礎としているため、社会保険労務士ではなく税理士の専門分野です。今後も申請は社会保険労務士ですが、「生産性要件」をクリアできるかどうかのカギを握っているのは会計の専門家である税理士となるため社会保険労務士と税理士の連携が必要となってくるでしょう。

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