【令和2年4月10日更新】
- 一人親方が加入できる労災保険とは?
- 労災保険の特別加入制度
- まとめ
・はじめに
・労災保険とは何?
・一人親方とは
・一人親方の問題点
・1.特別加入できる人
・2.特別加入の手続き
特別加入団体の種類
・3.健康診断が必要な場合
・4.給付基礎日額・保険料
①給付基礎日額
②保険料
・5.補償対象範囲
業務災害
建設業の一人親方等
通勤災害
参考:労災保険法上の通勤とは?
・6.保険給付・特別支給金
・7.支給制限
・8.特別加入者でなくなるケース
一人親方が加入できる労災保険とは?
はじめに
一人親方の労災保険特別加入制度を分かりやすく説明します
一人親方として仕事をされている方、「一人親方の労災保険特別加入制度」というものをご存知でしょうか?
既に加入しているという方もたくさんいらっしゃるかと思います。
しかし一方で、この制度をご存知ない方が多いのも現状で、とても良い保険制度であるにも関わらず、まだ知らないが為に本来貰えるはずの保険給付を受けられないということは大きな損失です。
ここでは、この「一人親方の労災保険特別加入制度」の内容や手続きについてはもちろんのこと、
そもそも労災保険とは?
一人親方とは?
というところから簡単に分かりやすく解説していきます。
そしてもし!そんな制度初めて聞いたという一人親方の方がいらっしゃいましたら、保険なんて難しい話は嫌い!と思わず是非読まれてみて下さい。きっと新しい発見があるはずです。
また既に加入されている方も自分がどのような制度に加入しているのかイマイチ分からないという場合も多いかと思います。
ここで再確認してみましょう。
労災保険とは何?
原則は従業員(労働者)の仕事中または通勤中の事故を補償する保険制度
労災保険とは、労働者災害補償保険の略称で、従業員(以下労働者といいます)が仕事中または通勤中に事故に遭い怪我をした場合、病気になった場合、障害が残った場合、死亡してしまった場合等について、その労働者または遺族に対して保険給付を行う国の保険制度です。
労働者を一人でも雇う事業主は、労災保険に加入しなければならず、保険料は全額事業主負担になります。
一人親方とは
建設業などで労働者を雇わずに自分一人で事業を行う人のこと
労働者として事業者に雇われるのではなく、建設業などで労働者を雇わずに自分一人で事業を行う人のことをいいます。
事業といっても実状は、特定の会社と契約しそこの労働者と変わらない仕事をしている人がほとんどで、元はその会社の労働者である場合もあります。
一人親方の問題点
労災保険は労働者を対象としているため一人親方は仕事中にケガをしても補償されない
特定の事業主と契約し、そこの労働者と変わらない仕事をしているということは、一人親方は非常に弱い立場にあることを表しています。
労働者は労働基準法などの法律によって守られていますが、一人親方には関係のない法律です。なぜなら事業主と一人親方は対等な取引関係にあるだけで雇用契約ではないからです。
よって労災保険についても基本的には労働者を対象としている為、一人親方は仕事中にケガをした場合でも対象外となります。
一人親方が加入できる労災保険の概要はこちら↓↓↓
『一人親方が加入できる労災保険とは?』
一人親方の労災保険特別加入の事例集はコチラ↓↓↓
『みんなで進める一人親方の労災保険特別加入の事例集』
一人親方の労災保険特別加入制度のメリットはコチラ↓↓↓
『工事現場で働く一人親方の労災保険(特別加入)のメリットってなに?』
労災保険の特別加入制度
一人親方の事故についても特別に労災保険を補償する制度
一人親方も労働者と同じように労働災害に遭う可能性があります。特に現場仕事などである場合には尚更です。
雇用関係ではないからという理由だけで切り捨ててしまうのは問題があります。
そこで設けられたのが労災保険特別加入制度で、一人親方の任意によって加入するか否か決めることが出来ます。
また一人親方とは労働者を雇わない人のことをいいますが、雇った場合にも年間の使用日数が100日未満の場合には特別加入することが出来ます。
1. 特別加入できる人
建設業の一人親方以外にタクシー業者なども対象となる
次の事業を行う一人親方その他の事業者及びその事業に従事する人(以下一人親方等といいます)
- 自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業…個人タクシー業者、個人貨物運送者など
- 土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは、解体またはその準備の事業…大工、左官、とび職人、電気工事屋など
- 漁船による水産動植物の採捕の事業…漁師など
- 林業の事業…植林事業者など
- 医薬品の配置販売の事業…置き薬販売業者など
- 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業…リサイクル品の回収業者など
2. 特別加入の手続き
特別加入団体(労働保険事務組合)に依頼すれば加入できる
一人親方等が特別加入する場合には、個人で直接申し込むことは出来ず、特別加入団体を通して申し込まなくてはなりません。
既存の特別加入団体に加入しない場合には自分で団体を作る必要があります。
これは、一人親方等を労働者、特別加入団体を事業主とみなしている為です。
加入する団体を決めて加入手続きをした後は、特別加入団体が所轄の労働基準監督署に「特別加入に関する変更届」を提出することにより労災保険の特別加入手続きを行います。
自分で団体を作る場合には、「特別加入申請書」を提出し、労働基準監督署の承認を受けてから加入手続きに入ります。
特別加入団体の種類
特別加入団体には大きく3つの種類があります。
まず、○○県土木建築労働組合などの加入者の多い名の知れた団体です。規模が大きい団体が多いので代行してくれることも幅広いです。
次に、○○事務センターや事務組合などの社会保険労務士が窓口になっている団体です。専門家である社労士が付いていますので安心感があります。
最後に、一人親方労災保険組合のようにネット上に作られている団体です。ネット取引になりますので顔が見えない不安はありますが、費用が安い場合が多いので特別加入以外に用がないということであれば十分な団体です。
3. 健康診断が必要な場合
業務の種類によっては加入時に健康診断の受診が必要
特別加入を希望する場合、健康診断が必要なケースがあります。
労災保険に加入する前に置かれていた状況を原因として発生した病気等であるにもかかわらず、加入後に発病し労災保険の給付を受けてしまっては、他の加入者との公平性に問題がある為です。
健康診断が必要な人は以下の通りです。
業務種類 | 業務を行っていた通算期間 | 行われる健康診断 |
---|---|---|
粉塵に関わる業務 | 3年以上 | 塵肺 |
振動工具※1を使用する業務 | 1年以上 | 振動障害 |
鉛に関わる業務 | 6か月以上 | 鉛中毒 |
有機溶剤※2に関わる業務 | 6か月以上 | 有機溶剤中毒 |
※ 1 振動工具とは削岩機、チェーンソー等をいいます。
※ 2 有機溶剤とはアセトン、クロロホルム、クロロベンゼン等をいいます。
健康診断が必要な場合の手続きは次のように流れていきます。
- 「特別加入時健康診断申出書」を所轄労働基準監督署に特定加入団体が提出します。
- 1の申出書を所轄労働基準監督署が確認し、健康診断が必要であると認めらた場合には、「特別加入健康診断指示書」、「特別加入時健康診断実施依頼書」が出されます。
- 2の指示書を持って、指定された診断実施機関及び期限内に健康診断を受診します。「特別加入時健康診断実施依頼書」は健康診断を受ける機関に提出します。
- 健康診断を受診した機関が健康診断証明書を作成しますので、それを「特別加入に関する変更届」または「特別加入申請書」に添付し所轄労働基準監督署に提出します。
健康診断の結果、既に病気等になっていて療養に専念すべきであると認めらた場合には特別加入は認められません。
また、療養に専念するほどではなくても、その業務に就くべきではないと認めらた場合には、その業務以外の業務についてのみ特別加入が認められます。
他にも、健康診断の結果、特別加入を認めらた場合であっても労災事故が起こった際に、それが特別加入前の業務に原因があると認めらた場合には、保険給付を受けることが出来ません。
4. 給付基礎日額・保険料
保険料は①業種と②補償金額によって決まる
それでは実際に労災事故が起こった場合にはいくら貰えるのでしょうか。
労災保険は給付基礎日額の〇日分や〇%という形で計算され支給されます。
① 給付基礎日額
労災保険給付額の計算のもとになる金額で、労働者の場合は平均賃金で算出されますが、一人親方等の場合にはそれがありませんので、自分の希望する額を給付基礎日額とすることが出来ます。もちろん金額が高いほど保険料も高くなります。
この日額を変更したい場合には、期間内に「給付基礎日額変更申請書」を所轄労働基準監督署に提出することで変更可能です。
しかし日額を変更する予定であっても、これを提出する前に労災事故が発生してしまうと提出前の日額によって保険給付額が計算されてしまいますので、変更したいと思った時には早めの提出が必要です。
② 保険料
保険料は①の給付基礎日額×365日に、業種ごとの保険料率を乗じて計算されます。
表3 給付基礎日額・保険料一覧表
給付基礎日額 A |
保険料算定基礎額 B=A×365日 |
年間保険料 年間保険料=保険料算定基礎額(注)×保険料率 |
|
---|---|---|---|
(例1)建設の事業の場合 保険料率19/1000 |
(例2)個人タクシー事業の場合 保険料率13/1000 |
||
25,000円 | 9,125,000円 | 173,375円 | 118,625円 |
24,000円 | 8,760,000円 | 166,440円 | 113,880円 |
22,000円 | 8,030,000円 | 152,570円 | 104,390円 |
20,000円 | 7,300,000円 | 138,700円 | 94,900円 |
18,000円 | 6,570,000円 | 124,830円 | 85,410円 |
16,000円 | 5,840,000円 | 110,960円 | 75,920円 |
14,000円 | 5,110,000円 | 97,090円 | 66,430円 |
12,000円 | 4,380,000円 | 83,220円 | 56,940円 |
10,000円 | 3,650,000円 | 69,350円 | 47,450円 |
9,000円 | 3,285,000円 | 62,415円 | 42,705円 |
8,000円 | 2,920,000円 | 55,480円 | 37,960円 |
7,000円 | 2,555,000円 | 48,545円 | 33,215円 |
6,000円 | 2,190,000円 | 41,610円 | 28,470円 |
5,000円 | 1,825,000円 | 34,675円 | 23,725円 |
4,000円 | 1,460,000円 | 27,740円 | 18,980円 |
3,500円 | 1,277,500円 | 24,263円 | 16,601円 |
(注)特別加入者全員の保険料算定基礎額を合計した額に千円未満の端数が生じるときは端数切り捨てとなります。
保険料一覧表、保険料率表(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6-06.pdf
5. 補償対象範囲
業務上の災害だけでなく通勤途上の災害も補償される
業務中の災害は以下に該当する場合に限り補償対象とされます。
通勤中の災害については一般の労働者と同じように取り扱われますが、個人タクシー業者や個人貨物運送業者、漁師などについては通勤中と業務中の線引きが難しいため、通勤災害については補償対象外となっています。
業務災害または通勤災害を被った場合のうち、一定の要件を満たすときに労災保険 から給付が行われます。
業務災害
建設業の一人親方等
通勤災害
参考:労災保険法上の通勤とは?
「通勤災害」とは、通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます。この場合の「通勤」とは、就業に関し、①住居と就業の場所との間の往復 ②就業の場所から他の就業の場所への移動 ③赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとしています。これらの移動の経路を逸脱・中断した場合は、その逸脱・中断の間およびその後の移動は通勤となりません。ただし、その逸脱・中断が、日常生活上必要な 行為であって日用品の購入などをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、合理的な経路に戻った後の移動は「通勤」となります。
業務災害の補償対象範囲(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6-07.pdf
6. 保険給付・特別支給金
業務中の災害による保険金の種類には、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、傷病補償年金、遺族補償給付、葬祭料、介護補償給付などがあります。
通勤中の災害による保険金の種類には、療養給付、休業給付、障害給付、傷病年金、遺族給付、葬祭給付、介護給付などがあります。
どれに該当するかによって、給付基礎日数の何日分または何%給付するのか、特別支給金の有無が定められています。
保険給付・特別支給金一覧表(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6-08.pdf
7. 支給制限
業務中の災害や通勤中の災害が、5の補償範囲に当てはまる場合には6の保険給付が行われますが、もしこの災害が特別加入者の故意若しくは重大な過失によって起こった場合や、保険料を滞納しておりその滞納期間中に起こった場合には、その給付の全部または一部が行われない場合があります。
8. 特別加入者でなくなるケース
以下の場合には特別加入者ではなくなります。
- 一人親方等が加入している特別加入団体が脱退し、存在しなくなった場合
- 一人親方等が加入している特別加入団体が法令違反等の理由により承認取り消しとなった場合
- 一人親方等が特別加入者の要件を満たさなくなった場合
- 一人親方等が特別加入団体の構成員でなくなった場合
まとめ
一人親方の人が加入できる労災保険特別加入制度、いかがでしたでしょうか。
一人親方といえどもサラリーマンと同じように、業務災害や通勤災害が起こった場合には労災の保険給付が受けられるというこの制度、利用する価値があることは間違いありません。
しかし一人親方の場合には、特別加入団体に加入しなければならないこと、加入すれば加入費や年会費、事務手数料などが掛かってしまうこと、大きな団体になってくると行事があったりなどします。
この制度を知らなかった人も既に加入している人も、自分は本当に特別加入する必要があるのか?加入するならどこの団体に入るか?今の団体が本当に自分に合っているのか?入った場合には収入に対して保険料が合っているのか?など、様々なことを慎重に検討する必要があります。
しかし、自分で検討するには限界がある場合もあります。そういう時にはお近くの労働基準監督署や社会保険労務士に相談してみるのも一つの手です。
一人親方が加入できる労災保険の概要はこちら↓↓↓
『一人親方が加入できる労災保険とは?』
一人親方の労災保険特別加入の事例集はコチラ↓↓↓
『みんなで進める一人親方の労災保険特別加入の事例集』
一人親方の労災保険特別加入制度のメリットはコチラ↓↓↓
『工事現場で働く一人親方の労災保険(特別加入)のメリットってなに?』