第1章:外注と給与、何が違う?基準やメリット・デメリット比較
「外注」と「給与」の選択は、企業の財務状況と法務リスクに直接的な影響を及ぼします。特に社会保険料、消費税、契約の柔軟性において、両者には明確な違いが存在します。以下の表で、その核心的な違いを比較します。

外注 (事業主)
社会保険料
企業負担は発生しません。個人が国民健康保険・国民年金に加入します。
契約の自由度
労働法の解雇規制を受けず、契約に基づき柔軟に終了が可能です。
退職金・賞与
支払義務は発生しません。

給与 (労働者)
社会保険料
厚生年金・健康保険料の約半分を企業が負担する必要があります。
契約の自由度
労働法により厳しく解雇が規制されます。
退職金・賞与
規定に基づき支払義務が発生する場合があります。
税務上の主な違い
源泉徴収の要否
給与の場合、支払者は源泉徴収義務を負います。一方、外注の場合は原則不要です(※弁護士やデザイナーなど一部の報酬を除く)。
※参考:国税庁 No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
消費税(課税仕入れ)の可否
外注費は課税仕入れとして扱われ、消費税の納税額から控除できます。しかし、給与は不課税取引のため、仕入税額控除の対象外となります。
第2章:コストはどれだけ違う?負担額の比較
同じ50万円を支払う場合でも、企業の総負担額は大きく異なります。給与支払いの場合、社会保険料の企業負担分(約15%と仮定)が加算されるため、総コストは外注費よりも高くなります。以下の図は、その差を視覚的に示したものです。
支払額50万円の場合の企業総負担額比較
第3章:「事業主」か「労働者」かを分ける判断基準
税務調査や労働審判では、契約書の名称ではなく業務の実態に基づいて総合的に判断されます。国税庁の消費税法基本通達などを参考に、実務上特に重視される10のポイントを解説します。
1. 指揮監督関係
業務の遂行方法について、具体的な指示や命令を受けているか。日々の業務報告や勤怠管理がされている場合、指揮監督下にあると見なされやすい。
2. 時間・場所的拘束
勤務時間や場所が指定され、自由に変更できないか。始業・終業時刻が定められ、指定されたオフィスでの勤務が義務付けられている場合、労働者性が強まる。
3. 代替性
本人の代わりに他の者が業務を行うことを許容されているか。第三者に再委託する自由がない場合、その業務は属人性が高く、労働者性を示唆する。
4. 報酬の性格
報酬が時間給や日給、月給など、労働時間に応じて計算されているか。成果物に対する対価ではなく、時間的な拘束に対して支払われている場合、給与と見なされやすい。
5. 事業主性
自己の計算と危険において事業を営んでいるか。自己の屋号で請求書を発行し、複数の取引先を持つ等の事実は事業主性を示す。
6. 機械・器具の負担
業務に必要な高価な機材を自己負担しているか。企業側が全て提供している場合、労働者として保護されるべき立場と判断されやすい。
7. 専属性の程度
特定の企業からの収入に大きく依存しているか。他の企業の業務を受けることが事実上困難である場合、経済的に従属していると見なされる。
8. 公租公課の負担
所得税の源泉徴収がされておらず、社会保険に加入していないか。これらは形式的な要素だが、他の実態と合わせて総合的に勘案される。
9. 契約形態
「業務委託契約書」等の形式だけでなく、内容に指揮命令や時間拘束に関する記述がないかが重要。逆に「雇用契約書」なら明確に労働者。
10. 請求・支払プロセス
自身の屋号等で請求書を発行し、それに基づいて支払いを受けているか。これは独立した事業主としての形式的な証拠となる。
第4章:ケーススタディ
理論だけでなく、具体的な事例を通じて判断基準の適用方法を理解することが重要です。ここでは3つの典型的な業種の事例を分析します。
ケーススタディ1:Webデザイナー
シナリオ:Aさんは、IT企業B社と「業務委託契約」を結び、月額50万円の固定報酬で働いています。契約期間は1年更新です。
検討ポイント:
- B社のオフィス内に専用デスクがあり、勤務時間は原則9時〜18時とされている(時間・場所的拘束→労働者性↑)。
- B社のディレクターから、デザインの細かな修正指示を随時受けている(指揮監督関係→労働者性↑)。
- 高価なデザインソフトやPCは自己負担で購入している(事業主性↑)。
- 多忙時にB社の許可を得て、一部作業を友人に手伝ってもらったことがある(限定的な代替性→事業主性↑、ただし許可制)。
- 報酬は成果物の納品数に関わらず、毎月固定額が支払われている(報酬の性格→労働者性↑)。
結論・解説:
指揮監督関係、時間・場所的拘束、固定報酬制といった点から、「給与」と認定されるリスクが非常に高い事例です。自己の機材負担や一部の代替性だけでは、事業主性を主張するのは困難と考えられます。
ケーススタディ2:建設業(一人親方)
シナリオ:Cさんは、元請D社と「請負契約」を結び、D社の建設現場で大工として働いています。報酬は日当2万円で計算され、月末に支払われます。
検討ポイント:
- D社の現場監督が、その日の作業手順や場所を細かく指示している(指揮監督関係→労働者性↑)。
- 手道具は自前だが、高価な電動工具や足場はD社から無償で提供されている(機械・器具の負担→労働者性↑)。
- 体調不良の日に、D社に連絡なく知人の大工に代わりに行ってもらったことがある(代替性→事業主性↑)。
- D社の仕事でほぼ毎日稼働しており、事実上他の仕事はできない(専属性の程度→労働者性↑)。
結論・解説:
代替性が認められる点は事業主性の要素ですが、強い指揮監督関係、機材提供、高い専属性から、総合的に判断すると「労働者性」が強いと見なされる可能性があります。特に建設業では偽装請負が問題となりやすい分野です。
ケーススタディ3:運送業(軽貨物)
シナリオ:Eさんは、運送会社F社と「業務委託契約」を結び、F社のロゴが入った自分の軽バンで宅配業務を行っています。報酬は配達した荷物1個あたり150円の完全出来高制。
検討ポイント:
- 配達エリアとルートが指定され、GPSで位置情報を管理されている(指揮監督関係→労働者性↑)。
- F社の制服を着用し、F社の従業員として対応するよう指導されている(指揮監督関係→労働者性↑)。
- 車両のガソリン代、保険料、修理費などはすべて自己負担である(事業主性↑)。
- F社の業務がない日に、別のアプリでフードデリバリーの仕事をしている(専属性が低い→事業主性↑)。
- 報酬が完全出来高制である(報酬の性格→事業主性↑)。
結論・解説:
指揮監督の要素はあるものの、自己の車両・経費負担、他社業務の兼業、完全出来高制といった点から、「外注(事業主)」として認められる可能性が高い事例です。自己の計算と危険で事業を行っている実態が強いと評価されます。